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内容説明
約三万人の死者を出した、悪名高いインパール作戦。この敗け戦を指揮した陸軍中将・牟田口廉也はそれまで、「常勝将軍」と呼ばれていた――。作戦はどのような経緯で実行され、なぜ失敗に至ったのか。「牟田口=悪」という単純な図式では理解できない、意思決定の構造がそこにはある。軍事史研究家が牟田口の生涯を追い、作戦の意思決定プロセスを川上から川下まで俯瞰することでインパール作戦の真の姿を明らかにする。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
78
アジア太平洋戦争史上最も悲惨な陸戦として語られるインパールの敗戦は、著者が指摘するように一人司令官の責任ではなく、作戦を認可した大本営などの軍参謀にあるという考え方は同意できる。ただ、それを論じるのに牟田口の軍人像を描いているのだが、その「良き軍人像」が強調されるほど、上述の責任論がぼやけてしまうのでは。つまり「良い軍人が指揮していたが失敗した。よって敗因は良い軍人(牟田口)ではない」という論理構造に陥っているように思うのだ。彼は野戦指揮官としては有能かもしれないが、戦略家としては問題が多いと感じた。2022/08/09
香菜子(かなこ・Kanako)
24
牟田口廉也とインパール作戦 日本陸軍「無責任の総和」を問う。関口 高史先生の著書。インパール作戦を失敗に導いたことで知られる牟田口廉也陸軍司令官。インパール作戦の失敗は牟田口廉也陸軍司令官だけが無責任であったことが理由ではない。日本陸軍で責任ある立場にあった人たちの中に無責任な人が多くいたから無責任が無責任を生んで無責任の連鎖が発生してしまったから。今となっては何が真実なのかはわからないけれど無責任でほかの人の無責任を見て見ぬふりしてしまうような人は責任ある立場になってはいけないということかな。2022/08/17
CTC
15
7月の光文社新書新刊。著者は元防大准教授の軍事研究家でNHKスペシャルなどの考証も行なっているそうだ。本書は有り体に云えば牟田口だけが悪かった訳じゃない、という事を記したいようなんだが…“まえがき”には「なぜ、このように牟田口に対する評価は低いのか(中略)多くの戦没者を出し、負けたことを責めているのだろうか」と書き、「“牟田口擁護論”を期待する方は、その期待を根底から裏切られるであろう」とその「客観性」を売りにするので、期待しちゃったんだけどね。徹頭徹尾牟田口側視点で書かれた本である。2022/10/16
筑紫の國造
14
先の戦争でインパール作戦を指揮し、「愚将」の典型のように語られる牟田口廉也とインパール作戦について再考を促す一書。牟田口の誕生からその死まで扱われるが、タイトル通りインパール作戦についての言及が多くを占める。親族のもとにある貴重な写真が掲載されており、「任務重視型軍隊」という日本軍の特性からインパールにおける失敗を牟田口個人のみではなく、陸軍そのものが抱えていた宿痾の発現として捉え直している。初戦では「常勝」だった牟田口は、なぜ戦後「愚将」とされたのか。本書からは、また違った牟田口像が浮かび上がる。2024/03/28
パット長月
14
著者の略歴をみるに元幹部自衛官(一佐)として旧陸軍なら参謀・師団長といった役どころであり、悪名高い牟田口を「任務重視型軍隊」という組織や当時の世界情勢を考慮した公平・冷静に評価する一方、彼を支えるべき参謀らに対する評価は極めて辛辣である。たぶん著者は正しい。実際牟田口のようなタイプは、今もたぶんそうだし、ましてや高度成長期の企業においてはむしろ普通だったろう。しかし軍隊は企業ではない。実際に一将功ならずとも、万骨を異国で枯らしてしまったからには、立場として、やはりそれなりの身の処し方があったように思う。2022/08/31