内容説明
アメリカ人の父と日本人の母のもとへ、養子としてやってきたアイ。 内戦、テロ、地震、貧困……世界には悲しいニュースがあふれている。 なのに、自分は恵まれた生活を送っている。 そのことを思うと、アイはなんだか苦しくなるが、どうしたらいいかわからない。 けれど、やがてアイは、親友と出会い、愛する人と家族になり、ひとりの女性として自らの手で扉を開ける―― たとえ理解できなくても、愛することはできる。 世界を変えられないとしても、想うことはできる。 西加奈子の渾身の叫びに、深く心を揺さぶられる長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鉄之助
560
「この世界にアイは存在しません。」本文中にいったい何回繰り返されているか? 思わず数えてしまった。何と23回! アイは主人公の名前であり、Iであり愛。読了後も、ずっと私の頭の中でこだましている。「自分が恵まれているいることを恥ずかしいと思う」アイが、親友ミナ(ALLの隠喩)や夫ユウ(YOU)と出合うことで自分らしさを発見、成長する物語。ミナは言う。「(恵まれていることを恥じる)その気持ちは大切だと思う。何かと繫がる気持ちだから」。相手を思いやる想像力、いま最も求められているテーマが、そこにはあった。2025/02/02
bunmei
379
「この世にアイは存在しない」の言葉の洗礼を受け、自分だけが幸せに生きることへの枷となり、蟠りを持ち続けてきたアイ。西さんは、今でこそ大阪弁でまくしたてる人気作家ですが、イラン生まれのエジプト育ちの幼少期に、見聞きしてきた現実が、こうした主人公・アイを生み出した原動力になっているのでしょうね。また、男性からはなかなか分かりにくい、女性特有の繊細な心のヒダや葛藤を、残酷にも且つ優しく描いていると思います。又吉さんとの対談にもあった、ラストシーンに繰り返される文章表現が、自分もとても印象深く残りました。2019/12/03
mae.dat
296
「この世界にアイは存在しません。」文体は読み易くありますが、テーマは重目で。主にアイとミナ、それぞれ違った境遇から独特のアイデンティティを確立していて、身の回りや世界で起こる災害や紛争に心を砕くのね。そんな二人を受けて、稚拙な思う所を書いてもなので。未読の方は是非ご自身でご確認下さい。ませ。虚数に自身を重ねて数学科を志し、そこでのディスカッションが面白かった。数学の定理とかはね、人が知る以前から、それこそ宇宙開闢前からその性質は変わらずに、数学者に見つけられるのをぢっと待ってるのよ。そう思うと可愛くてね。2024/10/09
あきら
290
口に出る少し手前の言葉を、とても巧みに言語化されてると感じた。 色々な立場や置かれている環境で、考え方も変わる。 恵まれていることが恵まれていない、ということも確かにあるのだろうなあ。2022/05/02
hit4papa
257
アメリカ人と日本人の夫婦の養子として育ったシリア人女子の物語です。裕福な両親に愛されてきた主役アイ。アイは、自身の幸運に罪悪感を抱き、世界の人々の不幸な死を記録し続けざるを得ません。頭脳明晰であり、何不自由がない故に、かえって不自由を感じる多感な日々がつづられます。自身の輪郭を見失い、確かなものに憧れ続けるアイに共感してしまいました。アイは、i (アイ)=虚数の存在を認める数学に没頭します。タイトルの意味を含めて奥が深いですね。ラストの失速気味ですが、仲違いした最愛の親友とのひと時は、ちょっとホロリ。2022/05/31