内容説明
「土地の名まえ」の背景には、いつも物語がある。そこに暮らす、人々の息遣いがある。峠や湖川など、地形に結びついた名まえ。植物や動物に由来する地名。街道や国境など、人の営みをめぐる地名。音やまなざしから付けられた名まえ。消えた地名、新たに生まれた地名……。空を行き交う鳥や風のように伸びやかに、旅した土地の名まえから喚起される思いを綴る、二作の葉篇随筆を合本した文庫版。(解説・吉田篤弘)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mocha
82
日本各地の地名を考察する。なぜそんな読み方を?という地名やいかにも曰く有りげな地名がずらり。確たる来歴が判明するものばかりではないが、梨木さんの知見と考察の過程、そして全国をドライブしたりカヤックで探索したりという行動力に敬服する。知っている土地と知らない地名では自分の興味の持ち方が全然違うことには我ながら苦笑してしまう。巻末に、人は「その地名を脳内のどこかにコレクションする」という一文があった。知っている地名の項を読むのは、自分のコレクションと照らし合わす楽しみがあるのだなと腑に落ちた。2022/07/04
クプクプ
82
「風と双眼鏡、膝掛け毛布」はハードカバーですでに読んでいたので割愛。「鳥と雲と薬草袋」の方は主に九州の地名について書かれていました。感想は、やっぱり私は梨木香歩さんの書く文章が好きだということ。今回は地名というテーマを選んだことにより、普段、梨木香歩さんが使いたがるカタカナが減ったことが成功の要因だと思いました。私は九州へ行ったことがないですが、大切な何かが宿った名エッセイだと感じました。2022/02/18
エドワード
64
地名の由来を尋ねて日本中を旅する梨木さん。人は分かち難く土地と結びついている。大切な故郷。古い地名が消えて新しい地名が出来る。市町村合併はかなり乱暴な地名を作る。しかし今、古くからある地名だと馴染んでいるものに実は安直な改名があるなど、複雑だ。私も地名に関心があり、大変興味深く読めた。廃仏毀釈はIS以上の凄まじさ、生態系が守られている場所は軍事関係が多いなど、面白い発見も多い。「ざわっとする地名」として挙げられている姨捨、毒沢、無音(よばらず)などに胸が熱くなる、と感想を述べられているのに共感する。2021/11/01
piro
46
日本各地の地名をめぐる「葉篇集」。地図を見ながらそれぞれの土地の名を噛み締める様に読みました。古来からの人の生活や自然の営みを背景とした地名はなんとも奥深い。岬を表す「サキ」と「ハナ」、九州の「バル」、アイヌ語起源の「ナイ」など彼の地への興味を大いにそそられます。それに引換え新しく生まれた地名の何とつまらない事!(住民および関係者の皆様すみません)。それぞれの土地のエピソードも興味深いものでした。水清らかな田沢湖が瀕死の湖だった事や、津波で外来植物のみが消え津波耐性がある在来種は生き残ったと言う話は驚き。2021/10/24
イプシロン
37
地名にまつわる小文集。著者自ら「小文集」としているだけに、個人的思いからなる記述をなるべく避け、地名にまつわる事実を探求しようとする静かな筆致は、小川のせせらぎのようである。しかし梨木川は時折り、ささやかな氾濫をおこしもする。その地名にかつて住した人達に向けられた人為的暴力の歴史にぶつかった時だ。豊かな自然や虫や鳥たちだけに視線を向けられる、美しい地名を訪ねる癒しの旅もよかろう。しかし、私には自然(人為もまた自然の一部であり)、自然とは創造と破壊が両立してゆくという、梨木さんの光と闇の両面を見ている視点が2022/07/27