内容説明
第9回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞受賞作の、待望の文庫化です。「今日的テーマを扱いつつ難易度の高いテクニックを駆使し、着地の鮮やかさも一級品」茶木則雄(書評家)。10年前に起きた、ある少女をめぐる忌まわしい事件。児童相談所の所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言から、やがてショッキングな真実が浮かび上がる。巧妙な仕掛けと、予想外の結末に戦慄する!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
黒瀬 木綿希(ゆうき)
192
これは哀しい。止められなかった負の連鎖が無意識のまま続いていく…。児童相談所の所長らが語る10年前の忌まわしい事件の真相。比較的早い段階で当事者の内の1人がすでに亡くなっていることが判明し、ますます先が気になる展開へ。 被害者でもあるがクズな父親から逃れた今は彼女なりの幸せを掴んでいるのだから良かった。そう思っていたのですが、最後の文で絶望に叩き落とされました。インタビュアーの正体や何故こんな行動を取っているのか分かりませんでしたが、亜紀の言動や思考を元に虐待の真相を確かめたかったからなのだろうか。2020/05/22
茜
178
長崎県南児童相談所の所長である隈部へのインタビューから始まる。冒頭で示唆されるのはこの物語が10年前に起きた、ある忌まわしい事件、当時10歳の長峰亜紀という少女への児童虐待事件の深層を探るものである、という点だ。亜紀の担任だった女性教師や当時の同級生、保健所の保健師や一時保護所の所長、亜紀の母親が勤めていたパート先の店長や同僚だったキャバレーのホステスなど関係者のインタビューが隈部のインタビューと交互に展開し、児童虐待を徐々に明らかにしていく。児童虐待に対する法律第9条があるということを知りました。 2019/11/24
nobby
156
児童虐待がテーマと分かって読んだが、終始顔をしかめたまま読了。虐待を受けていた亜紀をめぐり、インタビュー形式で児童相談所長とその関係者を交互に並べて全貌が明らかになっていく様は面白い。殺されたのは誰なのか、ここにも少々回りくどいタイトルが秀逸。いざ救助の際の不審の真相を知って尚嫌悪感…最後に判明するインタビュアーの正体には薄々勘付いたが、ラスト読んでゾッとする。暴力・虐待まさに連鎖なのか、そして勿論仕方がないでは片付けられない難しさ。2016/04/13
utinopoti27
140
ある少女の秘密と、児童虐待が日常化する環境が引き起こした、過去の忌まわしい事件の記憶。本作は、児相所長を中心とした、少女に関わった人物たちへのインタビューで構成される、独白形式のミステリだ。過去に何が起きたのか、インタビューは誰が何のために行っているのか、不明なまま進行するストーリー。周到に計算されたプロットの妙が本作の生命線なのだが、独白にしては時折垣間見える文学的な語り口が興を削ぐ。つまり、技巧に頼る「あざとさ」が鼻につくのだ。本作が「このミス」大賞に届かなかった理由の一端は、この辺にもあると思う。2019/09/21
りゅう☆
98
10年前に起こった少女亜紀の忌まわしい事件について、記者が彼女に関わってきた人へ取材するドキュメンタリー方式。父の会社の倒産により亜紀の家族の歯車が狂い始めた。離婚後、母の新しい男杉本からの虐待の非情さに心痛む。なんとか亜紀を救おうと懸命に動く児童相談所所長の隈部。ようやく鬼畜から逃げられたと思ったのに…。結局亜紀はどうなったの?あの時死んでしまったの?今でも生きてるの?気になってどんどんページを捲る手が止まらない。亜紀と杉本の母親はクソだな。そしてラストで明らかになる予想外な展開と恐ろしい言葉にゾクッ。2021/09/17