内容説明
治承四年(一一八〇年)。平清盛は、高倉上皇や平家一門の反対を押し切って、京から福原への遷都を強行する。清盛の息子たち、宗盛・知盛・重衡は父親に富士川の戦いでの大敗を報告し、都を京へ戻すよう説得しようと清盛邸を訪れるが、その夜、邸で怪事件が続発する。清盛の寝所から平家を守護する刀が消え、「化鳥を目撃した」という物の怪騒ぎが起き、翌日には平家にとって不吉な夢を見たと喧伝していた青侍が、ばらばらに切断された屍で発見されたのだ。邸に泊まっていた清盛の異母弟・平頼盛は、甥たちから源頼朝との内通を疑われながらも、事件解決に乗り出すが……。第四回細谷正充賞を受賞した話題作『蝶として死す』に続く、長編歴史ミステリ!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
134
福原遷都と源平の争いに揺れる治承の頃、清盛とその周辺で怪事件が相次いだとは「平家物語」にも記されている。そうした史実とミステリを組み合わせ、再び平頼盛が源氏への内通を疑われながら謎解きに挑む。九百年近く前を舞台にしながら頼盛が聞き込みを重ねて証言の細かな矛盾点を看破し、推理を重ねて真犯人を突き止めるプロセスは本格物として瑕疵がない。しかも頼盛が真相を突き止めたと思わせながら、ラストで裏に秘められた清盛の恐るべき政略が明らかになる政治小説的な要素も加えて、乱世の複雑怪奇さを描くドラマを巧みに成立させている。2022/08/03
ちょろこ
130
タイトルが秀逸の一冊。平清盛が福原へ遷都した1180年の清盛邸で起きた怪事件に平頼盛が挑むミステリ。この時代の邸の見取り図まで味わえるとは嫌でも心踊るスタート。刀消失から結局4つの謎を解明しなければ自身の身が危ない、崖っぷち頼盛。この時代の風習、宗盛、知盛、重衡の三兄弟の性格を盛り込みながらの推理合戦は読み応え抜群。若かりし頃の小生意気な知盛を表面上はサラッといなす頼盛だけど胸の中はざらざら…が笑えた。着地点、タイトルの秀逸さに思わず膝をぽん。からのあのラスト。したたか頼盛に舌を巻く余韻が後を引く面白さ。2023/05/11
がらくたどん
74
平家の本流ながら源平の乱世をひたすら逃げて生き延びた平頼盛の推理帖の続巻。清盛の強引な福原遷都と唐突な環都の間の清盛邸での一夜の怪事件に清盛の愛息重盛亡き後の3兄弟と叔父頼盛が挑む。源平の時代の綺羅と腐臭の味わいは前作が濃いが、推理小説としては証拠の提示からトリックの納得度まで前作よりは数段に本格っぽい。福原の都はいったい誰にとっての揺籃(揺り籠)なのか?最終章の決着に清盛こそが自分の平氏の血を引いていないかもしれないという出自に囚われ攻撃的な謀略と裏返しの不安を抱えていたのではないかとゾクリとした。2022/11/11
シャコタンブルー
69
平安末期に京都から福原へ遷都した事で起きる緊張感や厭世観がヒシヒシと伝わってきた。物の怪騒ぎ、殺人、名刀の盗難等の事件が次から次へと起きる。これらの事件の解決に挑むのが清盛の異母弟である平頼盛だ。相変わらず清盛からの圧力は凄まじく、失敗すれば死が待っているので事件解明は命懸けだ。切れそうな証拠の糸と糸を繊細な推理で紡ぎ、驚くべき真相に辿り着く様子は鮮やかだ。富士川の戦いで源氏に敗れ、次第に追い込まれて行く平家の中で頼盛はこれからどんな知恵と才覚で乱世を生き延びて行くのか、次作もとても楽しみだ。2022/08/02
さつき
61
前作と違い今回は長編。殺人事件や盗難、化鳥など絡み合った幾つかの謎に平頼盛が挑みます。ついこないだ『茜唄』を読んだばかりなので、二つの作品の人物造形の違いにぎくっとします。でも、これはこれで面白い。全く違う世界観に浸り謎解きを楽しみました。2023/09/19
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