内容説明
古い体質と格闘するなかから、どう新しい大学を生み出すのか。
「大学改革」のかけ声ばかりが先行し、学問や教育が痩せ細るなか、大学への信頼はどのように取り戻せばいいか。その問いへつながる道筋に、近現代日本文学の研究者が、「大学人」として発信しつづけた言葉を配置する。
日本の大学行政の問題点をもっともチープなかたちで照らし出すにいたった、元理事や前理事長の逮捕・起訴といった、いわゆる日大事件。日本大学アメリカン・フットボール部の危険タックル事件。それらの渦中にいた著者が、できるかぎり事実をたがえることのないよう、メモと記憶にしたがって書き下ろした第1部「大学の現在、そして危機のなかの日常」。圧巻の93,000字。大学人はもとより、組織にいる人間には必読のテキストである。
第二部は、コロナ禍に遭遇した最初の半年間に出し続けた「学部長通信」を主に、第三部は、学生・保護者・卒業生に語った文章を収録。これらは教職員のみならず学生・保護者、卒業生にどのように事態を報告し、安心を与えられるか、考え抜かれた言葉である。「言葉なくして、安心も共感も説得もない。苦しいなかで言葉を届ける。それだけを考えて、メッセージを書き続けた」。
大学を取り巻く社会で、学問への敬意が希薄になったいま、「新自由主義」によってもたらされた過剰な市場原理主義が大学を席巻するいま、全教育関係者にとっての必読書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みじんこ
5
前半は日大理事であった著者が背任と脱税事件に揺れる大学の中で何を考えどう行動したか(緊急提言など実に積極的改革派である)、アメフト事件にもさかのぼり記される。権力集中の構造などを理解できる面白いドキュメントでもあり、校友会理事の抵抗から「情誼」を感じるなど自分にはない視点だった。「言葉なくして、安心も共感も説得もない」と書いている通り、後半はこれまで教職員や学生に向け発信したメッセージが収録されており、コロナ禍での遠隔授業は決して楽ではないことも分かった。著者にお会いしたこともあるが、やはり文章がうまい。2022/05/03
かつ
0
前半は学部長として、日大の不祥事への対応、後半はコロナ禍の教職員、学生へのメッセージ集。それなりにおもしろかった。2022/07/15