内容説明
二つの喪失からの再出発
2022年5月、「無言館」は開館25周年を迎える。戦没画学生の作品を展示するこの私設美術館には毎年多くの見学者が訪れ、館長として活躍する著者の評価も高い。
しかしながらここ数年、著者は二つの大きな喪失を体現した。
一つは「無言館」の本家ともいえる「信濃デッサン館」を閉館したことである。このデッサン館は、著者が畏怖する村山槐多など、夭折した画家たちの作品や関係資料などを収蔵・展示してきたが、運営が困難となり、長野県立美術館に多くを売却・譲渡することとなった。
もう一つは十万人に一人以下という陰茎癌と診断され、手術によってペニスを失ったことである。長年疥癬に苦しんだり、講演中に脳出血で倒れたりと、病気につきまとわれる著者にとって、これは人生を見つめ直すほどの大きな衝撃だった。
この二つの大きな喪失によって、出生から現在まで、改めて半生を振り返り、自らの存在を確かめようとしたのが本書である。あえて負の部分を晒すことで、逆に傘寿を超えた著者の新たな野望すら見て取れ、不思議な共感を呼び起こす自伝的作品ともいえる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さくら咲く
21
水上勉の長子、窪島誠一郎さんの半生記録。貧しい養父母との生活、複数の職を経てスナックで成功、やがて画商へ。そして実父母を探し当てた経緯、上田市の「信濃デッサン館」「無言館」の開館に纏わる諸々。その人生は波瀾万丈、そして現在は満身創痍そのもの。正直に自分と向き合った著者に今は「残照館」が安息を与えてくれているのだと感じ入った。2023年1月公開予定である長野市の長野県立美術館内での新しい「信濃デッサン館」を是非訪れたい。近隣ではあるが胸が詰まりそうで未訪問ままの「無言館」、そして「残照館」へも心が動いた。2022/07/05
こけこ
1
窪島誠一郎さんを知るには、うってつけの本です。読みながら感情移入してしまいました。夭逝した画家の背景を知って美術館を建てられる姿にエールを送りました。2023/05/09
ぱぴぷぺぽ
0
****2022/12/02