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内容説明
太平洋戦争末期、1944(昭和19)年2月に松本百五十連隊はトラック島に上陸した。
本書は、松本を出営し、トラック島まで辛くもたどりつき、そこで敗戦をむかえる翌45年8月までの戦記である。
太平洋における日本海軍の最大の根拠地トラック島防衛のため派遣されるも、連隊の主力はトラック島到着直前の二月十七日、
米機動部隊のトラック島攻撃に遭遇し、その乗船を撃沈されて多数の人員と装備の全部を失うこととなる。
その後、戦線が硫黄島などに進み、トラック島は補給の途絶したまま、とり残された。
身一つで救助されてトラック島に到着した連隊主力は、その後の一年半を、空襲にさらされながら、陣地構築と飢餓との戦いを生き抜くことになる。
生存者に徹底取材し、克明にして膨大なメモからまとめられた無名兵士たちの哀史。末端から見た戦争の実態!
「この作品は「戦争という巨大な人間の奔流を、特定の個人の小さな私見でなく、多くの生き残り兵を取材して、その生きざまに取組んでみよう」としたものです。
それがどれくらいかなえられたかはともかくとして、今にして思うとこの時の体験が次の作品『あゝ野麦峠』の手法を身につける為に、決定的だったということです」
(山本茂実)
※本書は、1978年に小社より刊行された作品を復刊したものです。故藤原彰氏(1932-2003)の解説も再掲しました。底本には1979年の5刷を使用しました。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kawa
32
郷土の松本連隊(歩兵百五十連隊)トラック島の悲劇(海軍丁事件/日本軍上層部の不祥事として有名)を追う。義父が戦争中の洋上漂流の経験を語っていたことを思い出す。もしかしたら、本書に描かれる一場面にいたかも知れないと思うと複雑な心境。ちょうど、映像で太平洋戦をアメリカ海兵隊の視点で描く「ザ・パシフィック」を見ている最中。悲惨な戦争で犠牲になるのは、前途ある若者が圧倒的多数。戦争の意思決定をした権力者は、後方の安全地帯で差配を振るっているという不条理。(コメントへ)2022/06/11
CTC
11
22年5月の角川新書新刊。初出は64年の信陽新聞(松本エリアの地方紙で78年に休刊しているもよう)連載で、同年近代史研究会なる版元から単行本刊、78年に角川文庫になっている。著者は『あゝ野麦峠』(68年)の山本茂美(私としては『喜作新道』71年の)。つまり郷土に根付いた題材をものにした作家だが、本人は松本連隊=150iではなく、近歩三だ(226の翌年入営で8年苦闘)。米軍資料他客觀資料と「帰還者みんなと話」そうと1年半掛けた当事者取材を「鎖のようにつない」だ労作。解説は藤原彰(文庫時より)。2022/12/09
モリータ
8
◆初出『信陽新聞』連載(1964年~?、原題「燃える軍旗」)、単行本1966年は現タイトルで近代史研究会刊、文庫版1978年角川文庫刊、新書版(本書)2022年角川新書刊。◆文庫版に付された藤原彰氏の解説を再収録(以下引用):「この『松本連隊の最後』は、長野県の郷土部隊である松本の第百五十連隊が、太平洋戦争末期の一九四四(昭和十九)年二月トラック島に上陸してから、そこで敗戦をむかえる翌四五年八月までの戦記である。(中略)刊行当時から、調査の綿密さと記録性の高さ、兵士の体験を中心とした感動的な内容とに(続2023/08/08
Masataka Sakai
2
いくつかの日に慰霊をして、慰霊したつもりになってはいけないと感じた。2022/08/11
晴天
0
松本から南洋島嶼に派遣された連隊の出発から終戦までをオーラルヒストリーで描く様は、華々しい戦記とは異なり、輸送船の沈没、上陸後の空襲、米軍が上陸することなく放置された島での飢餓と、多くの無惨な死が描かれる。他方で、空襲も餓えも島民を避けるわけではない。その生活を脅かし、心をも荒廃させていく様まで踏み込むのは意義深い。私は南洋島嶼に暮らしたことがあり、トラック諸島に赴いたこともあるが、島民を使役し、何でも喰らい、生活を破壊した傷跡は決して浅くないと感じている。それを思うと、記述ひとつひとつが染みてくる。2025/07/25