岩波新書<br> 人の心に働きかける経済政策

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岩波新書
人の心に働きかける経済政策

  • 著者名:翁邦雄
  • 価格 ¥946(本体¥860)
  • 岩波書店(2022/04発売)
  • ポイント 8pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784004319085

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内容説明

感染抑止のために行動変容を促す国民の心への働きかけと,デフレ脱却を目的とした人々の期待への働きかけ.この二つの「働きかけ」は,背景とする人間観(と経済学)が違う.行動経済学の成果を主流派のマクロ経済学に取り入れた公共政策を,銀行取付,バブル,貿易摩擦,日銀の異次元緩和などを題材に考える.

目次

はじめに┴第1章 自己実現的予言┴日本におけるトイレットペーパー・パニックと銀行取り付け/メインストリームの経済学とバブルは折り合いが悪い/銀行取り付け等はなぜ起きるのか:メインストリームの経済学の複数均衡による説明/人間は,なかなかパニックを起こさない:正常性バイアス/パニックを起こす四つの条件/金融市場にも正常性バイアスが働く:ドーンブッシュの法則┴第2章 ヒトはどのように判断・行動しているのか┴メインストリームの経済学による公共政策の基礎┴1 行動経済学の知見┴現在バイアスの罠/サンクコストの罠/責任者は深みにはまる:膝まで泥まみれ/人間のなかには二つのシステムがある/自動システムは原始的か/AIと人間の「ヒューリスティック」の違い/人間としての成長は人間をエコンから遠ざける/人間にとっての社会規範の重要性/人間は損失を嫌う:プロスペクト理論┴2 ヒトの心への働きかけ:フレーミングとナッジ┴フレーミング・選択アーキテクチャ/プライミング効果/ナッジ/ナッジの公共政策への応用/ナッジの倫理的課題/行動経済学的な人間像┴第3章 マクロ的な社会現象へのフレーミングやナッジ┴1 米中貿易摩擦と日米貿易摩擦:ポジティブなフレーミングの陥穽┴中国から見た日米貿易摩擦/「国際協調」というポジティブなフレーミング/非対称的な国際協調の陥穽┴2 日本の移民政策:フレーミングが強める現在バイアス┴「新三本の矢」/日本は日本人の国として高齢化し収縮していくのか/「定住外国人」というフレーミングのリスク/将来の日本社会を混迷させる現在バイアス┴3 新型コロナ対策:ナッジと社会規範の重要性┴新型コロナウイルス禍の幕開け/各国の感染対策/日本の対策におけるナッジの要素/ウイルスの感染拡大とストーリーの感染拡大には類似性がある┴第4章 メインストリームの経済学の「期待への働きかけ」┴1 メインストリームのマクロ経済学が考える金融政策の枠組み┴金融政策の基本:安定化政策としての金利操作/自然利子率と中央銀行の誘導金利の規範的関係/インフレ率はどこに落ち着くか/期待への働きかけの重要性/インフレ目標政策の歴史的出発点/金融危機後の状況/その後のニュージーランド┴2 物価安定をどう定義すべきか┴グリーンスパンによる物価安定の定義/物価測定が困難になってきた理由/物価測定をより困難にする経済の急激な変化┴第5章 「期待に働きかける金融政策」としての異次元緩和┴異次元緩和の出発点┴1 公開市場操作からみた異次元緩和┴量的緩和についての二つの考え方/公開市場操作のメカニズム/異次元緩和下でマネタリーベースを激増させることができる理由/当座預金への付利は売出手形売却と同じ資金吸収手段/自由に預金を引き出してはいけない日銀当座預金┴2 「期待への働きかけ」の帰結┴エコノミスト・金融市場関係者は懐疑的/家計の反応はエコノミストを下回る/家計は異次元緩和に関心をもたなかった/日本の状況はグリーンスパンの物価安定の定義を満たしていた/グリーンスパン的な物価安定脱却の二つの方法/異次元緩和に欠落していた家計にとってポジティブなストーリー/物価が上がっても賃金は上がらない/心理的衝撃を与えるサプライズの試み/物価上昇につながるフレーミングとナッジ/ピーターパンは飛ばなかった┴第6章 物価安定と無関心┴1 物価安定のあるべき姿とその達成手段┴インフレ目標を二%とする理由/金融政策の「のり代」を巡る議論の変化/インフレ目標引き上げ論の高まり/インフレ目標引き上げ論へのイエレン議長とバーナンキ元議長の反応/国により「のり代」は異なる/「グローバル・スタンダード」という片思い/「のり代」はいつ作るのか/「物価への無関心」を障害と考えるのは本末転倒┴2 ニューノーマルを超えて┴正常性バイアスを壊さずインフレ率を上げることはできるか/コロナ禍での財政政策の復権とその金融政策への影響/正常性バイアスからみた物価の財政理論/財政インフレとインフレ目標┴あとがき┴付録:金融政策に関するノート┴文献案内と脚注的補論

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

kei-zu

25
行動経済学の解説かと思いきや、アベノミクスの大規模な金融緩和など、書名のとおり「人の心」と経済政策の妙についての説明が興味深い。黒田総裁による日銀の金融緩和は、結果的に限定的な効果にとどまり、近年は弊害についての指摘も多くなって来たところ。自然科学のような実験が困難な経済学は、見通しが難しい。2023/08/22

koji

14
私は、著者の「金融政策のフロンティア」の読メレビュー(2013年12月)に「本書にはありませんが、著者の黒田異次元緩和批判は一読の価値ありです」と書いていました。本書でも、後半部で黒田10年を総括し痛烈に批判しています。その批判の要点は「人の心への働きかけの方法・手段の間違い」。本書では、かかる失敗を踏まえ、伝統的なマクロ経済学の限界を、2つのアプローチ(①ミクロ経済学の「期待への働きかけ」、②行動経済学)から捉え直します。取り分け、未だ不十分な②のマクロ経済学への応用に期待します。大いに刺激を受けました2023/01/18

のら

4
主流派経済学は人を合理的な存在であると仮定してきた。しかし実際の人は必ずしも合理的ではない。本書はそうした合理的ではない人間が社会を構成する中で、どのような「心に働きかける」経済政策が採用され機能し、又は機能しなかったのかを概観する。1,2章は本書を読むにあたっての基礎知識部分で内容は簡単。3章以下は個別具体的な内容でやや専門的。アベノミクス以来の大規模金融緩和は人々のインフレ期待に働きかけることを主眼としたが、そもそも人々は大規模金融緩和自体に関心を持たず、結果機能しなかったとの内容には笑ってしまった。2023/06/29

ぽん

3
人々の期待に働きかけるという、近年求められている経済政策の流れがコンパクトにまとまっていて読みやすい。行動経済学の知見が具体的にどう活かされているか、それがマクロ経済学にも応用されるには。メインストリーム経済学の考え方との違いも意識的でバランスのよい叙述かと思う。2022/10/29

okadaisuk8

3
行動経済学の簡単な解説が前半で、それをもとに黒田金融緩和がなぜ奏功しなかったかを描くのが後半。書きたかったことはほぼ後半だろう笑。日銀伝統派にとっては、金融政策で実現できることは限定されているというのが定説で、行動経済学的にもそうだと示したかったということだと理解。ただ、確かに金融政策は難しく、これで人の期待に訴えかけるのは難しいと実感ベースでも思う。黒田日銀冒頭の2倍、2年以内など「2」を連ねたプレゼンはその中では相当分かりやすかったが、YCCじゃもう分からないよな…と思う。2022/08/27

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