内容説明
無為な日々を過ごす「彼」は、移動式の監視カメラ「アイ」を手に入れた。極小眼球型の機体で街を疾走するが、ある日、なんとアイが勝手に自走をはじめ――。第58回文藝賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
konoha
64
タイトルと表紙に惹かれて。文藝賞受賞作。移動式小型カメラの〈アイ〉の目線で見る風景が楽しい。側溝や煙草の吸殻、お菓子の包装紙、パンプス、スニーカー。地面スレスレのところに広がる世界を乾いた文章で書く。新鮮な表現が多い。「ここの人じゃないよね」と言われ、「どこからどこまでが〈ここ〉であるのか」と思う。その問いかけが鋭い。乗代雄介さんや町屋良平さんに近い雰囲気を感じた。作者は昨年亡くなり、デビュー作が遺作となったそう。独特の視点や雰囲気の作品をもっと読みたかった。残念です。2022/04/02
いっち
37
タイトルの「眼球達磨式」とは、タイヤの付いている、ラジコン式小型カメラ。主人公は、不審者が出るという噂を聞き、防犯カメラが気になっていたので、購入する。小型カメラの映り方は、玄関のドアに付いている丸形のスコープに近い。小型カメラの視点で物語を描くという、新たな視点が取り入れられている。描写力もあるし、小型カメラそのものを主人公としてしまうたくらみも面白い。だが、残念ながら心に打つものがなかった。技術は高いし、すごいと思うのだが、読んで良かったとあまり感じなかった。AIが描いたような無機質さのためだろうか。2022/04/29
信兵衛
28
地べたの視点から人間を見るという趣向がとても面白い。虫の視点を私は想像してしまいました。 そしてその目線は、人間の選挙運動に向かっていくのですが、そこにどんな意味があるのか、はっきり捉えきれなかった処が残念。2022/04/20
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21
それが壊れたら、自分も痛む。そのくらい"五感になる"道具を、誰もがひとつは持っていそうな今。もしツールと自分、どちらが一人称(アイ)なのか曖昧になったら…。2022/08/01
ころちくわ
19
自走型監視カメラが送ってくる映像。なぜ魚眼レンズなのか?表紙の絵を見てイメージする。文章を読みながら、見にくい映像だな、と思ってしまった。カメラ目線の表現が斬新で、今までになかった小説。作者は文芸賞を受賞後に亡くなってしまったそうです、残念。住民の二極化、金持ちと貧乏人の分断なども織り交ぜて、不思議な感覚の面白い読後感でした。デビュー作が遺作になってしまいました。2022/08/02