内容説明
世の中の所得は平等に分配したほうが経済の活力が高まるのか、不平等に分配したほうが経済の活力は高まるのか──どの経済理論をとるかにより、政策解が全く違ってしまうことが起こりえる。その政策がどのような前提から導き出されているものか自覚のないまま行われる社会保障論議の愚を説き、根拠に基づく有効な政策形成を提言する。
目次
第2版の刊行にあたって
はじめに
拙著文献表
[応用編 I]
第1章 社会保障政策の政治経済学──アダム・スミスから,いわゆる(こども保険)まで
概要の紹介
働くことの意味とサービス経済の意味
人口減少社会と経済政策の目標
手にした学問が異なれば答えが変わる──上げ潮派とかトリクルダウンとかの話
経済学と政策思想
最後に,ミュルダールと,いわゆる(こども保険)について──ミュルダール夫妻の『人口問題の危機』
第2章 社会保障と関わる経済学の系譜序説──サミュエルソンの経済学系統図と彼のケインズ理解をめぐって
はじめに
サミュエルソンが描く経済学の系統図とその問題点
サミュエルソンの自信とノーベル経済学賞
社会保障と関わる経済学の系譜
経済学と政策との関わりを示す一例
第3章 社会保障と関わる経済学の系譜
はじめに
マンデヴィルとスミス
スミスとマルサス
ママリー,ホブソンとケインズ
ケインズのゲゼル評
ゾンバルトの『恋愛と自由と資本主義』
経済政策思想の流れ
右側の経済学と左側の経済学の相違
右側の経済学とモンペルラン・ソサイアティ
左側の経済学における不確実性とミンスキー,そして過少消費論
資本主義の成熟と社会保障
[応用編 II]
第4章 合成の誤謬の経済学と福祉国家
合成の誤謬と自由放任の終焉
合成の誤謬に基づく政策に抗う経済界
経済界のプロパガンダと規制緩和圧力
成長政策と戦略的貿易論
第5章 公的年金保険の政治経済学
年金界とのかかわりのきっかけ
右側の経済学と左側の経済学
ケインズの嫡子たち
経済政策思想の流れ
セイの法則かケインズの合成の誤謬か
手にした学問が異なれば答えが変わる
リスクと不確実性
経済学と政治,政策,そして思想とのつながり
積極的賦課方式論
公的年金が実質価値を保障しようとしていることの説明の難しさ
市場を利用することと引き換えに喪っていったもの
素材的・物的な視点からみた積立方式と賦課方式の類似性
積立方式信奉者たちの論
本日のメッセージ
第6章 研究と政策の間にある長い距離──QALY概念の経済学説史における位置
HTAとのかかわり
実証分析と規範分析
規範経済学の学説史──基数的効用から序数的効用へ
厚生経済学から新厚生経済学へ
アローの不可能性定理と分配問題
経済学と価値判断
政策論と価値判断
QALYに内在する基数的効用
HTAの政策立案への活用可能性
第7章 パラダイム・シフトほど大層な話ではないが切り替えた方が望ましい観点
はじめに
ダーウィン,マックス・プランクとパラダイム・シフト
クーンにパラダイム・シフトを着想させたもの
社会経済政策を考える上でのスタート地点での観点について
第8章 医療と介護,民主主義,経済学
投票者の合理的無知
世論7割の壁
給付先行型福祉国家
予算編成の現状の共有
手にした学問が異なれば答えが変わる
おわりに
[知識補給]
思想と酩酊体質
エコノ君の性格
「市場」に挑む「社会」の勝算は?
合成の誤謬考──企業の利潤極大化と社会の付加価値極大化は大いに異なる
ほか