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内容説明
ヴァレリーの全作品は現代世界の一つの無比に精緻な叙事詩である――。表題作ほか、訳者によって精選された「知性に就て」「地中海の感興」「レオナルドと哲学者達」の全四篇を収める。巻末に吉田健一の単行本未収録エッセイを併録する。
【目次】
訳者の序(吉田健一)
精神の政治学/知性に就て/地中海の感興/レオナルドと哲学者達(ヴァレリー/吉田健一訳)
ヴァレリーに就て(ヴァレリー頌/ヴァレリーのこと 吉田健一)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kthyk
14
ヴァレリーは1932年という両大戦の谷間、ヨーロッパ精神の危機をテーマとする講演を行っている。その記録を興味深い事に吉田健一が「精神の政治学」として翻訳し、1939年出版されていた。軽妙洒脱に語る吉田健一の知的世界からはしばらく離れていたが、久しぶりに神保町で出くわしたのが、この中央公論新刊の文庫本。興味深いヴァレリーを吉田健一がどう訳されたのか、早速買い求めた。冒頭の吉田健一の序、ヴァレリーは難解で高遠な思想家と考えられているようだが、それは不可解と書いている。ー>2020/12/05
Tenouji
10
非常に難解な文章。精神活動の二重性そのものが(解説では「すべてのものが自明」と解説されているが)、人間の心のあり方が、人間社会の複雑性をも作り出している、ということを、詩学、哲学、芸術のあり方と合わせて展開されている。特に視覚的なものと、身体的なものの乖離について述べているところに共感。この前に鶴太郎の本を読んでいたせいか、若い頃は、心の志向性を外界に求めるけど、歳をとると、自己の内面の複雑性の方が面白いのかも、とか考えたり…日本と西洋では、精神活動の志向性が違うんだよな。2018/02/19
渡邊利道
5
吉田健一訳によるヴァレリイ。30年代の講演三つと、ある作家の序文でレオナルド・ダ・ヴィンチ論ともなるものを収録、それに吉田によるヴァレリイ小論と四方田犬彦の吉田(のヴァレリイ体験)についての解説がつく。ヴァレリイの講演は現代の混乱とそこにおける知性の役割を述べたもの、それに名文「地中海の感興」。前者はいまやオーソドックスといって良いだろう現代論で、レオナルド論の晦渋ともいえる明晰さとともに時折思い出しては読み返したいもの。四方田の解説はここに収められていない文章を参照するものでちょっとずるい。2018/01/22
馬咲
3
表題と『知性に就て』は、急激な進歩と人間精神の危機についての今や標準と言えそうな文明論。『地中海の感興』は、ヨーロッパに知的刺激をもたらす地中海の風土についての、ヴァレリーの生い立ちを基にした考察。『レオナルドと哲学者達』は、哲学者と芸術家の区別に理由が無いことをレオナルドの芸術への取り組み方等から示し、言語表現のみを本質とする哲学観を批判する。これは科学的な図示法の発達による哲学(言語の精密な使用)の重要性の縮小という問題の指摘でもあり、言語活動への問題意識として現在はより深刻なものであると感じた。2023/05/24
garyou
3
昨今スマートフォンの使用を控えネットに接続する時間を減らそう、そうすることで自分本来の時間を取り戻そうなどという説を目にするけれど、そんなことは、ほかのたいていのことがそうであるように、昔から云われていたんだな。 しかし、人間はその技術の進歩に見合った精神状態にあったことがあるのだろうか、とも思う。それと、この講演を聞きにきたのはどういう人で、どういう反応があったのかも気になるなあ。2018/01/20