内容説明
中大兄皇子の名と「大化の改新」で知られる古代の天皇。孝徳天皇主導の下、乙巳(いっし)の変で蘇我本宗家を滅ぼす。白(はく)村江(そんこう)の戦で大敗後は、すぐに即位せず称制の形で防衛対策を推進。近江大津宮に遷都して即位し、初の全国的戸籍「庚(こう)午(ご)年(ねん)籍(じゃく)」を作成するなど、中央集権体制の確立をめざした。通説を覆し、その生涯を通して激動する七世紀の東アジアを描く。
目次
はしがき/舒明・皇極朝の中大兄(生年と家系/舒明朝と中大兄の登場/東アジア情勢の画期と皇極朝)/乙巳の変と改新詔(蘇我本宗家討滅/改革のはじまり/改新詔)/孝徳朝の改革のなかで(皇太子奏/蘇我倉山田石川麻呂事件/新冠位・官職と評制の施行/飛鳥還都)/斉明朝と飛鳥の荘厳化(飛鳥の都/阿倍比羅夫の北方遠征/有間皇子事件)/百済救援の出兵と称制(百済滅亡と百済救援/白村江戦の敗北/防衛体制の整備)/即位への道程(甲子宣/間人皇女の位置/近江大津宮遷都)/近江朝廷の日々(即位と諸后妃/外交関係の展開/中臣鎌足の死/近江令の存否/唐軍からの使者/崩御、そして壬申の乱勃発)/律令国家創始者像の創出(不改常典/持統・元明による顕彰/奈良時代の天智天皇観)/結―中大兄・天智の生涯/系図Ⅰ 六・七世紀の天皇家の系図/系図Ⅱ 天智・天武の家族関係/略年表
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
MUNEKAZ
14
天智天皇自身というよりは、天智天皇が生きた時代をまるごと捉えたような一冊。群臣たちの熾烈な権力闘争や東アジアの国際情勢の大変動など、天智天皇に関わる出来事を丁寧に記している。史料的な制約でその人間的な部分は伺えないが、政治的な動きや政策については真摯に検証しており、「大化改新をリードした改革者」というありがちなイメージは十分に覆るもの。持統、元明という後に皇位に登った娘たちや藤原氏による潤色を排し、時代の転換点を非情に勝ち抜いた(そして志半ばで倒れた)リーダーの姿がおぼろげながら見えてくるところである。2023/03/15
Makoto Yamamoto
11
大津宮跡をガイドする必要があり近江に遷都した天智天皇を知ることが必須と思い手に取った。 著者のまじめな論証の仕方が伝わってきて、すんなり読めた。 この時代では天皇になる序列も確定しなかったようで、合議、力で決まっていたように思えた。 また、朝鮮半島の関係についてはこの時代でも、乞われてかかわると中国が出てきて、大変な目に合っている。 現代でも参考になる。2019/10/23
:*:♪・゜’☆…((φ(‘ー’*)
4
乙巳の変で入鹿を殺し、出家して吉野に逃げた古人大兄皇子やその妻子子供まで殺し、有間皇子も殺し、血なまぐさすぎる印象を持っていた。自分の正当性を確保するためには人の命を使うことにも抵抗なかった時代なのか、皆殺しにしないと不安で不安でたまらなかったのかなあという理解しかできなかった。国内のみならず朝鮮半島や唐も激動しておりきっとプレッシャーもあったのだろう。この頃から百済など渡来人が日本の政治の中枢や生活にまですみずみに溶け込んでいたのだな。近江は志賀漢人、大友村主など渡来人の居留地だったとは知らなかった。2019/01/30
のむ
2
待ちに待ったぜ人物叢書天智天皇。序盤から天智天武非兄弟説を反証するなど、「そんな説ほっといてもええやん……」と言いたくなるものにまで丁寧に触れられていて誠意が感じられる。ただ天智天皇の出番(?)はとても少ないので、途中途中「そういや天智の本だったな」と気づきを得ることになる。まあ書紀からして意外と天智出てこないんで仕方ありませんが。 専門外の人も読める概説書としてなかなかにイイ出来だったと思います。2017/01/28