内容説明
あっしの洋行の土産話ですか。何なら御勘弁願いたいもんで。明治時代末期、大工の治吉はセントルイスで開かれる大博覧会で働くため、アメリカへ旅立った。ある夜、職場で出会った美しい中国人女性に誘われるがまま街へ出ると、不気味な地下室に連れ込まれる。そこで治吉が眼にしたのは、ガリガリと耳障りな音を立てて稼働する謎の肉挽機械だった……。「人間腸詰」「木魂」「無系統虎列剌」「近眼芸妓と迷宮事件」「S岬西洋婦人絞殺事件」「髪切虫」「悪魔祈祷書」「戦場」、幻想と猟奇趣味に彩られた粒ぞろいの短編8編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
里愛乍
61
本のタイトルからしてこの四文字は完全にホラーでしょ。というていで読み進めるも、どちらかといえば推理みのほうが強いかも。そんなふうにも思える短篇集ではあるが、読み返してみれば素材はやはり怪異に満ちている。というより自分にとって久作の小説は、もう文体自体がホラーなのだ。ストーリー以上に読む文字がホラー。そんな作家さん、そういないと思う。2024/08/31
sin
59
この短編集の剣呑なタイトルとなる冒頭の物語の軽妙な語り口に乗せられていると一転のオチに戦慄を覚えさせられる。続いて、伏線となる不可解な声と吾子を喪った状況を合わせてディケンズの『信号手』を思い起こすが怪談ではなく家族の喪失による人生の無常観を感じさす。続けて探偵不在の探偵小説が3つ…そして、髪切虫は遠く埃及のトート神の朗読を受信し女王転生は誘蛾灯に沈む。また、古本屋の親爺の悪戯心が悪魔祈祷書を産み出し…最後に舞台は戦場へ、軍医の知られざる役割に狂気の戦場をただ冴えざえした下弦の月が見下ろす。2023/06/06
yumimiy
48
中学時代に乱歩を読んで イヤだ気持ち悪いと思ったくせに イヤよイヤよも好きのうちで不気味系を好んで漁っていると必然的にドグラ・マグラに行きつくのだが、うえーっ!さっぱりわからんワケわかめ、身の丈に合ってないというか ばったり宇宙人と出くわしてどう挨拶したらいいのか分からない、みたいな。いつかドグラ・マグラをリベンジしたいもんだが その前にこれ、人間椅子ならぬ腸詰。大工の治吉が30年前に体験した奇怪話なのだが、語り口調がべらんめえのせいか暗黒落語だ。笑えるのはギャングのボスの名前がカント・デック!分かる?2022/09/12
まめこ
33
★★★★☆おぞましくも美しい久作ワールド。聖路易博覧会に派遣されたハル吉が語る恐怖体験「人間腸詰」じゃぱんがばめん~かみんかみんが頭から離れない!桃色の紙片は…あぁ帰りたかったのだなぁ。古本屋の主が語る効果絶大の「悪魔祈禱書」HOJOKY(笑)。クラルデ博士が「戦場」で気づいてしまった邪悪な疑惑。極寒下で治療する温かい臓腑…こみ上げる衝動がリアルだわ。今回は強烈な少女らがいなくて寂しいな。2022/04/03
有理数
24
夢野久作いいよね……。この世界に浸れる文章がこの世に残り、それを生み出した異形の幻想小説家がいた、という事実に感謝してしまうような作品群。シチュエーションの摩訶不思議さは、語り手の幻惑的な眼差しによっても補強されている。その語り手が見た世界だから、こんなにも不思議で、幻想的なのだという手触り。呪文のような、掴みどころのない言い回し、台詞……。探偵小説の輪郭、残虐非道な悪意の塊のような所業。お気に入りはやはり「人間腸詰」、そして「悪魔祈祷書」。夢野久作の魅力十分。2022/11/16