内容説明
加害者告発に加え、否認した母と傍観者だった自分も性虐待に加担していたという自責から書かれた本は他に類を見ない。まさに震撼の書である。――信田さよ子
■本書の内容
30年前、わたしの双子の弟を性虐待したのは、誰もが敬うエリート学者の「継父」だった。そして、現実から目を背け、わたしたち姉弟を糾弾したのは、誰よりも自由と解放を重んじたはずのフェミニストの闘士、母だった――。
1980~90年代、自由礼賛の名の下に、左派インテリの両親はわが子の人生を支配した。「継父」による加害が発覚したあとも、周囲の大人たちは(ひとりを除き)目をつぶり、告発しないことを選んだ。その共謀の過程で、子どもたちは名ばかりの同意と沈黙を強いられてきたのである。
著者は、傍観者としての、小さな加担者としての罪悪感を見つめ直し、苦悩の記憶を掘り起こしながら、文学的努力を払い、その経験を言語化する。
実父は「国境なき医師団」創設者のひとり、叔母はトリュフォー監督も認めた有名女優、母も継父も著名な言論人ということもあり、2021年1月の原書出版時にはフランス中に激震が走った。本が出版された1週間後には、「#MeTooInceste」というハッシュタグで8万件ものツイートが流れ、マクロン大統領が「子どもに対する性犯罪」の対応に関して声明を発するまでに至ったという。
本書は、被害がなかったことにされる構造と、沈黙にともなう罪悪感をありありと表現した一冊だ。フランスで32万部突破、海外版権15か国の話題作、ついに邦訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
14
謎の死を遂げたマリー・フランス・ピジェの姪が著者。シリアスな家族の間に起こった出来事を描く。2022/04/20
中海
3
家族内での近親相姦を描いた作品でフィクション(具体的には弟と継父)にも関わらず、よくもここまで読みやすくまとめたなあと思う。元々作家をやってた人ではないのに、誰に肩入れすることなく、感情的にもならずに一人一人の立場に寄り添い、客観的にまとめられてすごい精神力だなー、と。こういうナイーブな題材を扱った作品は、ぎこちなかったり、ぶつ切り感あったり、面白くなかったり問題が多いと思うが。具体的には、口先で理想を掲げても、いざ自分の周りで事が起こってしまうと、皆簡単に信念を揺らげてしまって、なかなか勇気を持てない。2022/11/07
富沢 櫻子
1
「彼はわたしの部屋に入り、優しさとわたしたちの親密さ、わたしの彼に対する信頼を利用して、まったく穏やかに、暴力を振るうことなく、わたしの中に沈黙を深く植え付けたのだ。」(P121)2023/05/08