内容説明
福島第一原発事故発生後、東日本壊滅を想定した複数の極秘シナリオが書かれていた!
官邸、米軍、自衛隊、東電がそれぞれに準備していた「最悪のシナリオ」。未曽有の危機を前に、危機管理を担う当事者たちは何を考え、どう動いたのか? 関係者100余名への独自取材をもとに、日本危機管理の実像に迫る! 第64回JCJ賞受賞のNHK・ETV特集が書籍化!
〈目次〉
プロローグ 「最悪のシナリオ」の謎
第1章 沈黙
Too Late――遅すぎたシナリオ / 3月12日、1号機水素爆発の衝撃 / パニックへの恐怖 / 動き出したアメリカ
第2章 責任と判断
怖れていた連鎖――3月14日、3号機水素爆発 / 東電本店の危機感 / 巻き込まれた自衛隊 / アメリカの焦り / 「撤退か否か」――判断を迫られた、官邸の政治家たち / 15日早朝、やってきた“そのとき”
第3章 反転攻勢
関東圏に到達した放射能 / それは“誤認”だった / 「使用済み燃料プール」という名のモンスター / ヘリ放水作戦開始 / 英雄的行為 /分水嶺
第4章 終結
吉田所長の“遺言” / 東電―自衛隊、非公式会談 / アメリカの大規模退避計画 / 自衛隊の覚悟 / 日本政府版「最悪のシナリオ」とは何だったのか / 最後の謎
エピローグ 「最悪のシナリオ」が残したもの
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まーくん
92
3.11福島第一原発事故対応で東日本壊滅ともいえる「最悪のシナリオ」が政府内部で作成されたが国民には公開されなかったという説の真偽を追及する。菅元首相をはじめ多くの当時の責任者にインタビューしているが、東電の関係者はほとんど応じていない。著者は初期の適切な時期にシナリオが作成・公開されなかったことに疑問を呈しているが、もし公開されたらパニックは必然。「最悪のシナリオ」は平時に公開、議論しておくべきもの。尤も原子力は絶対安全、無謬性が前提になっていたので、そもそも議論など出来るわけがない。これが諸悪の根源。2022/03/16
きみたけ
55
2021年3月に放送されたNHK・ETV特集「原発事故『最悪のシナリオ』そのとき誰が命を懸けるのか」の取材をもとに加筆した一冊。さすがNHKとあって、菅元総理を始め多くの関係者の証言やマル秘資料「最悪のシナリオ」の入手により、確度の高い内容・構成となっています。当時の政務補佐官が語る、危機の最中に政権幹部が直面したシビアアクシデントへの対応の仕組みが何も準備されていないという事実。一民間企業である東電に、政府は何の権限で命の危険がある作業を強いることができるのか。政府やアメリカ側の視点が斬新でした。2022/11/08
たまきら
48
福島第一原発事故の「真実」はNHK取材班渾身の一冊だった。こちらはNHKディレクター個人による一冊。豊富なインタビューとともにどちらかといえば政治的な背景に焦点を当てている。そこから立ち上がってくるのは日本の普遍的な問題ー冷静に物事を分析し、最悪の事態に備えるため情報を共有することができない、しないという問題だと思う。多くの人が気付いていたのに言うことを控えてしまう。その国民性がごく一部の人だけに責任を負わせているような気がした。だけど…望もうと望まなかろうと原発は全人類の問題であり、責任である。2022/06/13
読特
31
現場からの作業員撤退に止める権限は国家にない。自衛隊によるヘリコプターから燃料プールへの注水。水素爆発のリスクを孕む。人命を犠牲にしてでも国家危機を救うべきか?法的にも仕組み的にも何もできていない。そこに起こった連鎖的爆発。一時対処で手一杯。大局的な判断はできない。同盟国米国の苛立ち。国家主権も危うくなる。最悪のシナリオ作成も遅すぎた。「東日本が壊滅する」。救われたのは偶然の産物。・・燃料高騰とウクライナ危機で再稼働容認が多数派に。「何もないだろう」は甘い考え。忘れてはいけない、備えも覚悟もないことを。2022/05/05
Tui
19
東日本大震災で福島第1原発が制御不能に陥ったとき、何故すぐに最悪のシナリオを作成しなかったのかを追及したノンフィクション。浮かび上がるのは、日本独特ともいえる要因の数々。最悪を想定すると実現してしまうという言霊的な幻想、自衛隊やアメリカがやってくれるという依存心、危機管理そのものの甘さ。元総理から防衛省、米国側のキーマンにまでインタビューを重ね真相に迫っているが、肝心の当事者である東電サイドは口を閉ざしている。温暖化を考慮するとエネルギー源として原子力もありと思うが、こんな東電が管理するのなら絶対反対だ。2022/04/29