内容説明
本作は戦後間もない頃に起こった「光クラブ」事件がモデル。この事件を題材にして、著者は戦後の虚無感というものをまざまざと描写していく。ひとつに縛られていた戦時中の価値観が崩壊し、目標が見えなくなった戦後という時代。そしてその時代に生きる若者たちの姿は、さまざまな価値観に溢れている今の時代にも案外通じるものがあり、ぐいぐいと物語に引き込まれてしまった。
(※本書は1995/5/1に発売し、2022/3/10に電子化をいたしました)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぐうぐう
8
三島の『青の時代』が昭和25年7月、高木彬光の『白昼の死角』が昭和34年に雑誌連載を始めているので、25年5月に連載が終了した大下宇陀児のこの小説が、光クラブ事件を一番最初に取り上げた小説なのかもしれない。大下はそこに、政治をも絡めて描き、リアリズムの手法でミステリーを野心的に構築していく。いわゆる社会派のさきがけとしても『石の下の記憶』は評価されるべきだ。また、ここに登場する犯人の動機は、現在の犯罪心理と重なって見えるところもあって、そういう意味でもあまりに先駆的作品だ。2009/07/20
Kom
2
事件自体は正直微妙だけど、戦後の学生の雰囲気を感じられる。2018/10/22
cogeleau
1
終戦直後の東京。新しい社会秩序も価値観も定まらない状況で、不良学生たちは酒や麻雀に明け暮れ、娼宿に通ううちに金欠となり、集団強盗を企てる。彼らは仲間の符牒のようにスラングを多用し、結束を固める。代議士の息子有吉もそこに加わるが、まだ少年の思考から抜け切れない。その他には自分の欲望の達成のために理詰めで行動する起業家肌の秀才など。当時の社会風俗や若者の生態を活写していた。そうした中で殺人事件が起きるのだが、謎解きよりも人物たちの心理の推移を重視した手法には文学的な手応えを感じた。☆☆☆☆2025/08/14
渋谷英男
0
再読。若者の感覚に時代を感じる。若杉さんは何だったのか。☆32017/01/18
Gen Kato
0
再読。大下宇陀児を本格推理作家というには無理があるけれど、上質のミステリ「小説」家であることは疑うべくもなし。作品、もうちょっと復刻してほしい。2015/08/07