内容説明
歴史に秘められた事実を掘り起こした傑作長篇。
明治二年三月二十五日の夜明け。
宮古湾に碇泊している新政府軍の艦隊を
旧幕府軍の軍艦「回天」が襲った――。
箱館に立てこもった榎本武揚、土方歳三らは、次第に追い詰められていく状況を打開しようと、新鋭艦・開陽丸なきあと二番手の軍艦だった「回天」を使い、大胆な奇襲に賭けたのだった。
奇襲には成功したが、外輪船で小回りが利かない「回天」は、新政府艦隊に包囲されて集中砲撃を浴びる――。
一切作者の主観的視点は入れ込まず、事実のみをたどり、「回天」の運命を追いながら、初めて海上から箱館戦争が描かれた。
後に書かれる『天狗争乱』につながる、隠れた名作。
薩摩藩領宝島において、外国の捕鯨船員と島の警備の日本人との間の、小規模ながら戦闘がおこなわれた様子を描く「牛」を併録。
解説・森 史朗
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fwhd8325
54
短い作品ですが、とってもわかりやすく語られていると思います。凝縮しているという感じです。私たちが日頃目にし、耳にしている報道の裏側にも埋もれてしまった事実があるんだと思います。もう、そうした事実を追求する人はいないのだろうか。2022/04/23
たぬ
23
☆4 いや~ちびまる子ちゃん以外で清水の次郎長の名前を目にしたのは初めてだよ(一回こっきりの登場だったけど)。それにしても旧幕府軍対新政府軍の海戦のすさまじいこと! 銃や砲で容赦なく殲滅を狙ってくる。戦には負けたけど榎本武揚は幸運の星の下に生まれてるよね。あの状況は処刑されてもおかしくないもの。併録の「牛」も〇。牛肉食べたいがためだけによその国で何してくれてんだよイギリス人。2022/09/16
なの
17
解説にある通り、徹底した取材に基づく、迫力のある作品でした。吉村昭の真骨頂です。 続く短編も何気なく読んだが、あとがきや解説を見て、大きな影響を与えた出来事だと知って驚いた。2022/07/17
カツ
12
榎本艦隊の戦いを内側から描いた話。この辺りの話は他の本だとさらっと終わってしまっているので、詳細が分かって良かった。私の好きな土方歳三が先生の本に登場するので感慨深い。しかし、そこは先生らしくあっさりとしているのだが。もう一本の「牛」は動物小説かと思ったが、異国船が襲撃してくる話で尊王攘夷論が興る要因の一つになった事件との事。2024/01/04
A.KI.
7
いわゆる函館戦争の顛末を描いたものだが、軍艦「回天」を中心とした、海上での出来事を軸にしている点が、いかにも作者らしいというか。当初は海軍力で圧倒していたはずが、次々と艦艇の座礁などが起こり戦力が削られていき…ひとことでいえば、運がなかったのだろうか。起死回生の奇襲作戦時もどんどん予定が変わっていって結局うまくいかず。事実を淡々とつづっていくが、グイグイ読んでしまうのはほかの吉村作品同様。面白かった。2022/08/25