内容説明
私が漱石山房に出入したのは明治四十年から大正五年先生が亡くなられた時まで、十年間である。その間に私はただの一度も先生に叱られることがなかった。それは私が入門した時の事情から、先生がとくに私の神経をいたわって下さったということもあろうが、とにかく私は一度も先生から叱られたことがなかった。それで私は先生を恐いと思ったことがなかった。神経衰弱でいじけており、この偉い先生の前で畏まってはいたが、恐いと思ったことは一度もなかった。こんな優しい人が世にあろうかと先生の在世中も思いつづけたし、死後の現在でもあんな優しい人には二度と遭えないと信じている。(「世にも優しい人」)
漱石晩年の弟子の眼に映じた師とその家族の姿、先輩たちのふるまい……。文豪の風貌を知るうえの最良の一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
めーてる
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鏡子夫人がひそかに漱石に睡眠薬を盛っていたとの事実に、唖然。また、門下生たちの近い立場から見た人物像も見えたのが面白かった。2023/11/16
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漱石門下の特徴として、自分が漱石に一番可愛がられたと主張しがちだと思う。同様に他人の欠点やミスを評う割に、自分のことは“こういう人間だから仕方がない”と甘やかす。コレも漱石が弟子にそのように接したせいだろうと思う。そして皆が漱石の癇癪を許容する。漱石の弟子たちの書いたモノの面白さでもあるんだけど、どうかとも思う。“恩師”と言いながら三並艮の名前を「三並良」と表記するのは、本当にどうかと思う。まあ出版社の無知かも知れないが…2022/02/25