内容説明
「こっこ」こと華原琴子、早生まれの8歳、小学校3年生。好きな言葉は「孤独」。
2014年に芦田愛菜主演で映画化された話題作!
狭い公団住宅に、中華屋から譲り受けた赤い大きな円卓で食事をする華原家は、頑固で文字好きの祖父、明朗快活な祖母、ハンサムで阿呆な父と美人で阿呆で素直な母、それに中2の美人の三つ子の姉の8人家族。みんなこっこがかわいくてしょうがなく、何かと構うが、こっこは反骨精神豊かに「やかましい!いろいろと」「なんで、て聞くなやボケが」と心で思う。
こっこの尊敬する人物は、祖父の石太と、同じ公団に住む同級生のぽっさん。ぽっさんの吃音を、こっこは心から美しいと思う。吃音や眼帯をした同級生のものもらい、韓国人の同級生の不整脈をかっこいいと憧れ、それを真似したときに、「こっこはなんでそんな風なんや」と大人に怒られてしまう。しかしこっこは感じる。なぜかっこいいと羨んでやったことがいけないのか。こっこはぽっさんに相談し、人の痛みや言葉の責任について、懸命に「いまじん」するのだった。そうして迎えた夏休みの祖母の誕生日。ぽっさんにも「言わない」出来事がこっこに起きて――。
世間の価値観に立ち止まり、悩み考え成長する姿を活きのいい言葉でユーモラスに温かく描く。
※この電子書籍は2013年10月に文藝春秋より刊行された文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
833
西加奈子さんは初読。この軽快なタッチは想像通り。大阪弁の語りも著者の経歴を見れば納得。小学校3年生の琴子の視点に立てるのはプロフェッショナルの証し。モノの見方が固定化してしまった我々大人にはできない発想から物事を見るというアイディアと、それを可能にしてしまう力量には感心する。もっとも、いずれの登場人物も個性が際立ち過ぎて、逆にそのことがステレオタイプを招いているという欠点は免れないが。全篇を通じて、さほどの事件が起こらないプロット設定もうまい。こっこの語りのリズムだけで最後まで押し切ってしまうのだから。2016/01/31
ehirano1
540
これは面白い!しかも深いです。こっこがジャポニカにメモった風に、そして幹成美がバラ撒いた紙風に感想を書くと、「憧れ」「日常」「うるさいぼけ!」「カワイイ」「ユーモア」「爆笑」「各々の憂鬱」「成長」「家族」、「他人」「アイデンティティー」「大人とは」「感受性」がうまくうまく組み立てられた光溢れる作品でした。再読必至の名作だと思います。2017/05/12
yu
540
西加奈子すげ~~~~っていう衝撃!人に薦めたくなるような面白さとかではなく、この世界観にただただ感服。小学三年生の瞳に映る世界、耳に入る言葉、感じる空気、そして疑問。こっこは決して偏屈なんかじゃなく、純粋で自分の感性にただただ従順なだけ。ぽっさんと石太との公園での会話、鼠人間が逮捕された時のぽっさんとのシーンが死ぬほどよかった。『~言葉を発する瞬間に、わずかな重力を感じるようになった。』『生まれたら、死ぬために、生きていく。』 「大人になる」って難しくて不思議で大切でキラキラした時間だね。2013/10/25
ミカママ
527
狭い公団住宅の一室に潰れた中華料理店の大きな円卓があるこっこのおうち。家族に愛され、友人にも恵まれ、悩むこともあるし時には変質者に遭いながらも、こっこは成長していく。こっこの親友ぽっさんが泣かせる。「ひ、ひとりにして、す、すまんかった」。世界中のみんなにぽっさんがいればいいのに。解説は津村記久子さん。なんと贅沢な。2022/12/11
ミカママ
497
頭のてっぺんから尻尾の先まで、ぎっしり餡(西加奈子エキス)の詰まった鯛焼きみたいな作品!子どもたちの純真さ、腹黒さ、一生懸命さがめっちゃ伝わってくる!この「めっちゃ」という砕けた日本語も、西さんが主人公に語らせると、音楽のように聴こえてくる不思議。「…それ、めっちゃええやん。」「めっちゃええやん!」「せやろ!」関西弁を第二外国語に選択していてよかった、と心から思えた作品でした。とはいえ、関西弁を話さないあなたも、ぜひご一読を。2015/12/30