内容説明
大ヒット作!2020年11月公開。
ヒーローだった兄ちゃんは、20歳4か月で死んだ。超美形の妹は、内に籠もった。母も肥満化し、酒に溺れた。僕も東京の大学に入った。あとは、「サクラ」となづけられた犬が一匹――。そんなある年の暮れ。家を出ていた父が戻ってきた…。
(底本 2007年12月発行作品)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
925
本書は西加奈子さんの第2作目にあたるらしい。文体は、まだ多分にアマチュアっぽいところがあるのだが、おそらくはそれをカヴァーするためもあって、22歳の「僕」の一人称語りになっている。万事に華やかなお兄ちゃんと、超絶美人の妹にはさまれた地味で目立たない「僕」の設定はなかなかに巧みだ。当時、西加奈子さんは弱冠28歳だったのだが、男性の生理をよくわかっていることにも驚く。また、「いつか、いつか、お父さんとお母さんに、嘘をつくときがくる」というサキコさんのセリフも、唸るくらい見事に的を射ているのである。2019/01/13
ちょこまーぶる
549
まずは全くの勘違いをしていた。「さくら」という本題から勝手に桜だと思っていて、春になったら読むためにずっと積読本にしてしまっていた。背表紙に老犬の名前である事が書かれていた。家族の明と暗を描いた作品であるが、暗があるから家族は明になる事が出来るし、そしてお互いに認め合いながら前に進んで行くことの大切さを改めて教えさせられる思いがした作品でした。それにしても、文章が素晴らしくて、柔らかく、そして比喩表現の情景が眼前に浮かび上がるような文章でした。で、もっとも好きな文章は老犬サクラのしゃべり文に癒されました。2014/03/25
鉄之助
530
妙に心に響く、フレーズがたまらない。「この世にあるものは、全部誰かのもので、全部誰かのものでもない」。キリン公園で出会ったおじいさんの言葉だ。目が見えなくて、「星の形は見えんでも、光は感じることができる」と言う。「わしのこの目ぇはな、わしのもんやけど、わしのもんや無い。神様に返すんや」とも。この物語を読むと、つくづく「永遠なんてものは無い」と感じた。しかし、家族の愛は、確かにそこに在った。2022/12/18
風眠
529
ひとつの物語にいろいろな要素を詰め込みすぎていて、浅く広くという印象なのが残念。事故、死、愛、嘘、広汎性発達障害、摂食障害、アルコール依存、性、暴力・・・どれかひとつを柱として描き、物語に深みをもたせてもよかったのかもしれないな、と思った。弱者を安易に扱うかんじも、私は好きじゃない。救いは、家族が当たり前のように幸せだった頃のことが長く丁寧に書かれていたこと。ふんわりと温かい。そして兄の死後、妹の美貴がずっとため込んでいた感情を爆発させるシーンへと続くクライマックスに胸がつまる。幸せの描写が心に響く物語。2012/12/11
カメ吉
345
すごく温かく響いてくるお話でした。個性的な三兄弟妹を中心に家族やその恋人、友人たちとの絡みが面白かった。決してほのぼのだけじゃなくLGBTや大事な人との別れ等、深い内容もあったけど飼い犬の『サクラ』が可愛くて和らげてくれた。 家族というモノを改めて考えさせられる作品でした。また再読したい。2018/01/19