内容説明
戦前にはプロレタリア文学運動に身を投じ、共産党員や政治家としても活躍した作家・中野重治。中野の著作は、天皇制との闘争や転向など、共産主義運動との関連で批評されてきたが、中野が敗戦後から晩年まで取り組んだ朝鮮問題の実態や全体像は語られてこなかった。
中野が書いた戦後のテクストにおける朝鮮や在日朝鮮人の言説を丹念に読み込み、安保闘争や浅間山荘事件、東西冷戦などの社会的な事件・状況を踏まえながら、彼の朝鮮認識の変容と実像を明らかにする。
植民地主義やナショナリズム、転向、親日/反日、民族的連帯など、朝鮮や在日朝鮮人をめぐる諸問題に誠実に向き合い、それまでにない連帯のありようを模索した中野の思想的・政治的な実践が示す可能性を浮かび上がらせる。
目次
まえがき
序 章 〈中野重治と朝鮮問題〉研究史と本書の視座
第1章 「被圧迫民族の文学」概念の形成と展開――日米安全保障条約と日韓議定書
1 「圧迫民族の文学」としての日本文学との決別
2 「被圧迫民族の文学」の試み――「司書の死」をめぐって
第2章 植民地支配の「恩恵」、在日朝鮮人への〈甘え〉
1 「梨の花」のなかの朝鮮表象と父親の存在
2 日本社会における〈朝鮮〉の欠落――在日朝鮮人の日本語能力を鏡として
第3章 「朝鮮人の転向」という死角
1 〈越境〉と「模型」の境界標
2 「朝鮮人の転向」の源泉としての金達寿「朴達の裁判」
第4章 反安保闘争と「虎の鉄幹」のナショナリズム
1 「虎の鉄幹」のナショナリズムと日本帝国主義――その共犯関係
2 啄木におけるインターナショナリズム――晶子から「虎の鉄幹」への移動
3 「国民感情」の醸造と安保闘争への批判的意見
第5章 「科学的社会主義」と少数民族の生存権
1 「発展」への疑念――「プロクラスティネーション」をめぐって
2 被圧迫民族への〈償い〉――「素人の読み方」を手がかりに
第6章 「被圧迫民族」としての日本人へ
1 浅間山荘事件にあらわれた暴力――極左冒険主義/関東大震災時の朝鮮人虐殺
2 日本における朝鮮問題の総体的考察――「在日朝鮮人と全国水平社の人びと」と「緊急順不同」を中心に
参考文献
初出一覧
あとがき