内容説明
昭和の終わり、南河内に暮らす一族の娘に縁談が持ち上がる。女性は25歳までにと見合い結婚する者も多い時代。本人の考えを他所に、結納金や世間体を巡り親戚中の思惑が忙しくぶつかり合う。その喧噪を、分家に暮らす4歳の奈々子はじっと見つめていた――「家」がもたらす奇妙なせめぎ合いを豊かに描き、新人らしからぬ力量と選委員が絶賛、三島由紀夫賞&新潮新人賞ダブル受賞のデビュー作。(解説・町田康)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なゆ
68
なんか、懐かしい。好きな感じ。祖母がいなくなった途端、シュワシュワと消えた(ように思えた)我が家の里の様子にそっくりなんだ。本家、分家、濃密な親戚付き合い、その中で交わされる女たちの密やかな会話。意味がわからないながらも聞いている、4歳のなこたんの頭の中には、ヨウシ、カイホウ、アカ、セイシンなどの仄暗い単語が積み上がる。心を病んでいる叔母の縁談にまつわる一連の経緯が、幼い心に印象的に映る。そして“分家”をずっしりと背負わされた母久美子の、不安定な感情も。「ほんま私は、いかれころや」ピンクのぺろぺろって何?2022/07/27
優希
42
家のせめぎ合いなのでしょうか。わかったようなわからないような、曖昧な感情になりました。2022/08/01
harupon
20
デビュー作。三島由紀夫賞&新潮新人賞。昭和58年杉崎家の次女志保子の縁談話が持ち上がる。長女久美子の娘・奈々子4歳からみた河内の代々の農家「杉崎家」を回想して物語っている。血筋とか養子とか本家、分家。なんかいや~になるなぁ。こういう名家に生まれたらめんどくさいな。 2024/02/14
駄目男
19
新潮新人賞&三島由紀夫賞ダブル受賞のデビュー作。 昭和58年に四歳だった女の子「奈々子」から見た南河内に暮らす代々の農家一族「杉崎家」を現在から回想して書いている作品で、二十四歳の娘に縁談が持ち上り、女性は二五までに見合い結婚する者も多い時代。本人の考えを他所に、結納金や世間体を巡り親戚中の思惑が忙しくぶつかり合う。分家に暮らす四歳の菜々子はその喧噪をじっと見つめている様子だが、まるで一族のドキュメンタリーを小説にしたような作品で、一般家庭の日常会話をそのまま描写している味わい深いものでいい小説だ。2022/12/31
武井 康則
19
村中がほぼ血族という昭和の農村。口ばかりで生きる力を失って、ただ身内で集まっては互いに囁き、噂をする。アカ、カイホウ、セイシンと健全でないと意味付けたものをすべてカタカナで表現し、互いを傷つけあう日々。純粋なのか、ただ病んでいるだけなのか。中上健次と一見似ているが、中上には生への渇望がある。過剰でだから暴力的。こちらは静かに滅んでいくばかり。そんな昭和晩期なのに初期としか思えない、時代に取り残された、窒息しそうな濃密な関係だけに自閉した一族の物語。最近トンと見ない、オーソドックスな日本の近所を描いた小説。2022/05/18