内容説明
神々がシーシュポスに科した刑罰は大岩を山頂に押しあげる仕事だった。だが、やっと難所を越したと思うと大岩は突然はね返り、まっさかさまに転がり落ちてしまう。――本書はこのギリシア神話に寓してその根本思想である“不条理の哲学”を理論的に展開追究したもので、カミュの他の作品ならびに彼の自由の証人としてのさまざまな発言を根底的に支えている立場が明らかにされている。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
168
代表的な実存哲学の主題を借りながら自殺、愛、演技、征服、創造など様々な角度で不条理の感性を試論。著者は頑強な姿勢と不断の緊張を貫きながら、不条理を意識した上での人間的反抗による自由を示唆する。不条理と幸福は引き離せない兄弟であり、余す事なく汲み尽くせと。自殺論など時にロマンティックな飛躍も見せて、若々しい熱弁や表題作に人間への抑え難い愛情が抒情的に顕現している。『異邦人』の解題や『王国と追放』に繋がる「現在時」の観念など作品の架け橋としても重要作。文学論考はドストエフスキーよりカフカの方が性に合ってそう。2022/06/07
優希
109
万物の生存に対し、不条理という理論を意識したとき、どのような考えを持つかが述べられていました。不条理を徹底して追及することはカミュの作品の存在意義の根底的な側面を見せていると思います。世界は不条理により成り立ち、個人と社会を切り離すことは不可能だというのがカミュの考え方の真髄であることが明らかにされていました。哲学者が見てこなかったこの世界の闇の部分に切り込んだ評論として有意義でしょう。2016/07/05
nakanaka
74
難しい…。なんとか読みきったものの内容を理解できたとは言えないなぁ。読みきることが苦行のようだった…。圧倒的に知識が足りていないことを実感した読書だった。いつか再チャレンジしたい。2020/01/03
關 貞浩
66
不条理な論証によって、不条理は人間と世界のいずれの側にあるのでもなく、その両者の対峙によって生まれるものであることが示される。主にキルケゴールの実存主義哲学の陥った超越論的な飛躍を糾弾し、人間を超えた運命など(死を除いて)認めないとする勇ましい論理展開は、一見乱暴なようでもあるが明瞭で共感できる。ここに描かれた刺激的な逆説の数々によって、抽象的議論を自分の身近な感覚として咀嚼(単純化)する基礎を学ぶことができたように感じる。自殺とは認識の不足。自分に最も影響を与え、読書体験を豊かにしてくれたといえる一冊。2018/09/14
たーぼー
66
岩を山頂まで押し上げるも、岩は重みで遥か下の方へ転がり落ちる。神はシーシュポスへ岩を再び山頂へ運ぶ罰を課した。この永遠に続く拷問。これに日々の苦悩と不条理に喘ぐ自らを重ねるのは当然だ。登っては下り、よろめきながらも立ち塞がる『岩』に対して『すべてよし』と光芒を投じる用意はあるか?向き合った熱気と壮麗の先に侮辱を超え運命の勝利が待つ。此処に私は到れるだろうか?非人間的なものからの意識の出発が、その終わりでは人間的反抗の炎の真っ只中へ帰着すること。これを至上の理想とするカミュの人間賛歌に身も精神も射抜かれた。2017/04/22