集英社文芸単行本<br> 赤い十字

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集英社文芸単行本
赤い十字

  • ISBN:9784087735109

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内容説明

青年が引っ越し先のアパートで出会った、90歳の老女。アルツハイマー病を患う彼女は隣人に、自らの戦争の記憶を唐突に語り始めた。モスクワの公的機関で書類翻訳をしていたこと、捕虜リストに夫の名前を見つけたこと、ソ連が赤十字社からの捕虜交換の呼びかけを無視していたこと――。ベラルーシ気鋭の小説家が描く、忘れ去られる過去への抵抗、そして未来への決意。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

アキ

106
ソヴィエト社会主義共和国ーこの国を団結させていたのは、恐怖の秘密だけだ。沈黙の恐怖、物言わぬ記念碑のような社会。ベラルーシの作家サーシャ・フィリペンコの描く世界は「理不尽ゲーム」と同様に、信じられないような事実に基づく小説なのである。2000年にミンスクの町に越してきたサーシャが聞き手になり、91歳で認知症を患うタチヤーナの人生が語られる。夫は敵の捕虜となり、自身は1945年夫が敵側に寝返った罪で秘密警察に逮捕され、娘のアーシャとは生き別れになる。赤十字の文書に夫を隠すため書いた他人の運命をも最後に知る。2022/03/06

しいたけ

86
主人公に憑依して読み進む私の読書スタイルを、これ程後悔したことはない。ベラルーシ出身の作者が物語でアルツハイマーの老婆に語らせるこの国とあの国の残酷。これは今まさにウクライナとの戦争で繰り広げられる蛮行に繋がっている。歳を経ても消えていかない記憶がある。人の狂気に国民性は関係ない。自分や自分が属する国とは関係がないと言い切れたのなら、もっと距離をとって読めただろうに。作者の元に持ち込まれた第二次世界大戦時のソ連と赤十字との交信記録がベースにある。怒りをもって本を閉じたなら、その先の一歩を考える責務がある。2022/08/13

南雲吾朗

71
第二次世界大戦でドイツがソ連に徐々に進行してきたことと同様な事を、今はロシアがウクライナに対して行っている。 首謀者は違うが、同じこと(同じ歴史)を繰り返す人間という生き物は愚かな生物だ。この物語でも、モスクワの市民は、現状を把握していない。今の状態と一緒だ。国際赤十字の捕虜交換に全く応じないソ連。昔からロシアは自国民を駒としか考えていなかったことがここでも示唆されている。1924年のスターリンの時期から現在まで、ロシア(ソビエト)の根本的な体制は、全く変わっていないのだと痛感させられる。2022/03/31

キムチ27

68
敬愛するスヴェトラーナ氏激賞という当作、手に取れたことは奇跡に近い感涙に値した。筆者の想いとして綺羅星に如く存するロシア文学に比すればこの頁数のコンパクトさは些末、一気読みしてほしいレベルだと。で私も明け方の一気読み。頭の中にて 鉄パイプで組んだ赤十字の墓碑が。ロシアの大地に流れる数多の詩が大河のように流れ、涙が溢れた。筆者フィリペンコが語りの舞台として設定した場所と時間・・後から思うと絶妙。筆者の分身のようなサーシャ・・人生の終わりを感じた今、引っ越しをする状況。目にした赤い♰⇒タチヤーナとの出会が幕を2022/08/27

ケイトKATE

39
ミンスクのアパートに引っ越したサーシャは、90歳の老女タチヤーナと知り合う。認知症を患ったタチヤーナは、サーシャにスターリン時代の悪夢を語り出す。スターリン時代は、些細なことでも裏切り者となれば人々を容赦なく抹殺した。生きていても人間の尊厳を破壊し、国家に隷属しなければいけなかった。タチヤーナの言葉には、全体主義体制の本質が語られている。例えば、スターリンを称える者たちは、他者を虐げることで自分の存在意義を確かめていた哀れな人間だった。コンパクトな小説であるが、全体主義の恐怖をしっかりと伝えている。2024/03/07

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