内容説明
勤めていた大学に辞表を出し、寂れた島に仮初の棲み処を求めた迫村。月を愛でながら己の影と対話し、南方から流れついた女と愛し合い、地下へ降りて思いがけぬ光景を目にし、現実とも虚構ともつかぬ時間が過ぎていく。この自由も、再生も、幻なのか? 耽美と迷宮的悦楽に満ちた傑作長篇。読売文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
わたなべよしお
23
リアルな現代社会と橋一本でしかつながっていない「半島」という異世界で、中年の元大学教授の体験が綴られる。そこで作者は空間や時間、人間関係も歪ませ、異化していく。思いもよらない場所と場所がつながり、過去、現在、未来の区別も曖昧になる。そして、登場人物たちの人間性も不確かになっていく。何が書かれているのかなどと、理解しようとすると、罠にはまる。理解するのではなく、ただ体験すればよいのだ。実に得難い体験が得られるから。松浦さんの作品、好きだな。2024/07/18
しずかな午後
9
大学教員を辞めたひとりの中年男、彼が向かったのはかつて一度訪れたことのある寂れた半島の町。美しい海を眺め、酒肴と温泉を楽しみ、不思議な美女や饒舌な老人たちと語らい、秘密めいた地下道を逍遥する。まるで仙境のようなその土地で、男は俗世の垢をすすぎ、当てどなくゆるやかに日々を過ごす。…というのが前半で、徐々に女や金やらの生臭い話題が多くなり、気づけばどんどん嫌な話になってくる。怒り、恐れ、そして虚無に追い詰められた男は、ついに越えてはいけない一線を越える。「小人閑居して不善をなす」といってよいか。2024/07/01
かずぺん
5
不思議な展開の小説でした。不快感は無く読み進めました。何かわからないけど心に残りました。2022/04/18
ぬう
4
すごく良いたゆたうかんじ2022/11/23
スリルショー
2
自由を求めて大学を辞職した主人公が瀬戸内の小島に来るのだが、自由の在処がわからず、小島で幻想的な体験を通して彷徨うと言った物語。自由を求めて飛翔しようと占い師や怪しげな女性、動物、風景との交流は、はっきりとは伝えてこない会話の中で自身の未来、行き先を考えざるを得ない。自分探しをしている主人公と追体験をしているうちに、終盤に差し掛かかるに従って、いったいこの小説は何なのか?という疑問が湧いてくる。巻末の解説を読んで一応の納得はするが、結局自由なんてどうでも良くそれぞれの独立した章にテーマが与えられている。2023/01/15
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