内容説明
ごく近い未来を舞台に、ウイルスプログラム「裂け目」から送られる親しい人々の記憶と、台湾の自然、動植物をモチーフとして描かれる美しい6つの短篇集。著者自作のカラー博物画6点収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
85
タイトルから梅雨時期に読もうと思っていた一冊。6篇の短篇いずれも野性味溢れる自然が描かれているが、人間も、コンピューターウイルスでさえその一部に感じるシームレスな物語である。美しく描写された自然は愛着や投影ではなくメタファー。雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒くと、願いを受けて生まれた白雪姫のように、メタファーそのものが鮮烈な輪郭を浮かび上がらせる。しかしここにはメタファーの対象、白雪姫のような実体を持つ存在はいないのだ。掴んだ瞬間に擦り抜け、形を変えてしまうもの。消えることのない力強い何か。2022/06/17
榊原 香織
66
連作短編 表紙や挿絵の植物画も作者。センス良い。 最期の話は台湾映画になりそうないい感じです。 他のはやや読みにくい。 主人公は理系の人々。 ネイチャーライティングという台湾独自?の今風分野らしい。2021/12/06
Roko
33
ある人は山の中で暮らし、ある人は観測隊員なのだろうか氷に閉ざされた地で暮らし、別の人は町中で暮らし、それぞれの生き方をしているのだけど、何か共通の匂いのようなものを感じる。学校で推奨されるような普通の暮らしができない人、自分が興味を持ったものしか見えない人、過去を悔やみながらもそれを捨てることを拒む人。各作品の前に置かれた絵絵が呉明益氏自身が描かれたものだということに驚いてしまう。その絵から想像する景色と、作品の内容がとてもマッチしていて、こういう構成って楽しいなと思う。2024/08/21
けんさん
30
『伊与原新 + 恒川光太郎 = 呉明益:えっ、マジ!!』 初読み台湾作家による、ミミズ、野鳥、森、雲豹、クロマグロ、鷹などを題材としたネイチャーライティング小説。自然科学に根ざした細かな描写と独特な世界観は、まるで、台湾版 伊与原新+恒川光太郎 かと思いました!2021/12/26
ベル@bell-zou
26
小さなソフィーの大いなる冒険。失った世界だけの言葉を創りだすディーズ。ミンミン、アシエン、シアオテイエ。名付けようのない関係。未完の小説の続きを探すクワン。何かを追い求めるサラッサ。互いに互いのフックになり世界は繋がる。受け取る"鍵"は大切な者からのギフトのよう。彼らをひたと見つめる動物たちの眼差しと。大地と、森と、山と、海と。そして舞台は、あぁ。あの懐かしい商場へと帰るのだ。>>呉明益作品三冊目。一番難しいと感じた。読み流そうものなら容易く迷子になれそう。丁寧にゆっくり時間をかけて味わえて、とても満足。2022/07/10