内容説明
珠玉の言の葉たちが、心を優しく包み込む
“ことばの魔術師最後のエッセー集、待望の文庫化!
日々の暮らしの光景に四季の彩りとアクセントをもたらしてきた「果実」と「花実」。
食卓のささやかな悦びと至福の味の記憶を綴る――
苺、白桃、葡萄、柿、栗、ミカン、バナナ、梨、落花生、笹の葉、茄子、アスパラガス、ふきのとう、納豆等。
全38テーマを「ことばの果実」「ことばの花実」として構成。
美しい文章とともにカラー挿絵も魅力。長田氏の世界観とマッチした挿絵は単行本時から好評!
解説は落合恵子氏。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
176
日常にある幸福のエッセイ。柔らかな木肌や艷やかな葉に支えられて、なにもなかった枝に実る輝き。ことばにも果実がある。たわわな房が大切な想いのように熟成されて、芳醇な香りが食と笑顔を彩る。小道を抜けて振り返った仕草のような、爽やかな柑橘の風にふれた日々を懐かしむ。果実や花実を愛し、恵まれた土地に生きる方々は、穏やかで豊かなこころを保ち、空高く、清らかな光が似合う。幸せはかたちを変えながら、甘味となり優雅さを届けてくれる。ふと、風邪を引いたときに沁みた果実を思い出した。懐かしさが蘇る。だから読書はやめられない。2024/08/12
シナモン
107
「オレンジを強く絞り過ぎると苦いジュースになる。すなわち、過ぎたるは及ばざるがごとし。オレンジの真実である」「小さな壜のなかに、明るい大きな森がある。それがわたしのメイプルシロップ」「いったい、にんにくぬきの人生などあるだろうか」「胡椒の効かせ次第なのだ。人間の悲哀も、幸福も」美しいことばとみずみずしいイラストが心にじんわり沁みていく。手もとに置いて大事に少しずつ読みたい一冊。2023/09/07
アキ
99
長田弘のことばに色を添える松野美穂の挿画か瑞々しい。「ことばの果実」苺から始まり、白桃、スイカ、葡萄、レモン、ミカン、トマト、オレンジ、パイナップル、梨、五味子、林檎が良かった。「ことばの花実」では、オリーブ、グリーントマト、牡丹、茄子、ハラペーニョ、アスパラガス、もやし、納豆が良かった。テキサスで食べたチリ・コン・カンとハラペーニョ。天国に跳び上がるほど辛いこの小さな唐辛子を、メキシコ人は天国の実と呼ぶが、テキサス人はテキサスのピーナッツと呼んでポケットに忍ばせるらしい。面白いけど、ホントかな?2022/03/03
taraimo
27
物語のシーンや手紙にも季節感を添える果実や花実のひとつひとつにスポットを充て、語られる想い出やエピソードが、みずみずしい絵のように浮かびます。さわやかな柑橘系で括られる実でも、それぞれに個性やニュアンスを覗かせます。印象的なのは、甘夏ひとつ全部を完食できる孤独という幸せ。せわしなく何処へ入ったか分からない食事をしていると、ふと素材を味わい噛みしめる悦び、それが自分と向き合うための時間だと思ったりします。人生で溜め込んだ荷物を選別したら、本当はシンプルにミカン箱に収まる程度なのかもしれないな…2023/01/31
あきあかね
22
長田弘さんの詩は、見慣れたものを、平易な言葉で新鮮なものに変える魔法のようである。様々な果物をめぐるエッセイからなる本書も、甘夏の「明るい孤独」の味や、「人生の悲しみみたいにでかい」スイカといったように、身近な果物たちが違った表情を見せてくる。みずみずしく温もりのあるタッチの果物のイラストにも心が和む。 風邪をひいた子供の頃、母が絞ってくれた林檎のジュースの、体のすみずみまで沁みわたってゆく味のように多くの読者が共感できるものも、北米ヴァーモント州の、森の木立を渡ってゆく風の味がする⇒2023/09/04