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内容説明
異状死の死因を解剖・検査を通して究明し,法的判断の根拠を提供するのが法医学者の役割だ.その判断はどのように行われるのか.法医学者が死因を誤り,犯罪死を見逃すのはどのような場合か.日本の刑事司法および死因究明制度のどこが問題か.長年第一線で活躍を続け,数々の冤罪事件の鑑定を手がけた法医学者が,これまで経験した事件を取り上げながら訴える.
目次
はじめに┴I なぜ,死因を誤るのか? 死因究明制度の落とし穴┴1章 警察官の見落とし(誤認検視)の背景にあるもの┴2章 臨床医の判断(検案)が死因究明の出発点 一酸化炭素(CO)中毒事件を例に┴II 突然死はどのように発生し,何をもたらすか┴3章 心臓突然死┴一 暴行と心臓突然死 科学的「因果関係」と法的「因果関係」┴二 ストレスで人は死ぬか?┴三 不整脈による突然死┴四 身体拘束による突然死┴五 過労死┴六 圧受容体反射と迷走神経反射,神経調節性失神┴4章 その他の予期しない死,突然死┴一 溺死┴二 アナフィラキシーショック┴三 肺塞栓症┴四 脂肪塞栓症候群┴五 電解質異常┴III 医療事故と刑事裁判┴5章 医療裁判における「因果関係」┴6章 医療事故調査制度を考える┴一 都立広尾病院事件が火をつけた「異状死論争」┴二 司法解剖事例をふり返る┴IV どうすれば,冤罪を防止できるか┴7章 医療版
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fseigojp
15
いかに不明死が放置されているか その一端をみた2021/09/21
おおかみ
11
“専門的知識の乏しい取調官が、専門家に意見を聴取する際、予断に基づいて専門家に呈示する資料や前提条件を絞り、自らの見立てに沿った問いを発し、聴取内容を作文することが常態化していると感じる(186頁)”――著者の指摘は今に始まったことではなく、冤罪が明らかになり、捜査の誤りが議論される度に問題視されてきたことである。さすがに死因究明制度も緒に就き始めてはいるが、本書で紹介されるような海外の事例と比べると雲泥の差だろう。再審請求段階の大崎事件に言及している点にも、日本の司法に対する著者の強い思いが感じられる。2021/11/20
aochama
7
法医学者の著者が豊富な実例を使って突然死を分析、死が身近な割には複雑なものであることを示します。また、刑事司法が科学的知見を軽視するもとになったとされる事件やその後の変遷も興味深い。法律家へ厳しい指摘は、納得感ある内容でした。更に、十分に死因究明をしないことが冤罪の温床になっている可能性も指摘し、事例研究会など相互批判できる仕組み作りを提案しています。 法医学者の少なさや刑訴法の壁などの原因で起きるようてすが、刑事司法と医療への信頼維持のためにも腰をすえて取り組んでいくべき課題と思いました。2021/12/31
てくてく
6
法医学者としてかかわってきた事件の中で59の事例を挙げ、死因究明を行う専門職の充実を訴える一冊。刑事司法において人の死に関する責任を追及する姿勢や、保険の関連で過失を認定せざるを得ない点などを批判している。医学的素養の無い者が事件を見たててしまうことの弊害の批判は同意せざるをえない。2022/05/03
スコットレック
5
著者の方の訴えが切実。アメリカ・イギリスとの制度の違いはこの本を読むまで全く知らなかった。米英に習うには数々の険しいハードルを乗り越えなければならないと思う。法改正の為には国会で議論が必要だと思いますが・・。自分には縁遠い世界だと本書を読んでいてついつい思ってしまいますが、自分がもし当事者になったとしたら・・。この本で書かれている、著者の方の提言・訴えは広く知られるべきだと思います。あと、マリリン・モンローやロバート・ケネディの検視・解剖を行なっていたのが日本人だったとは驚き!2022/03/01