内容説明
2020年1月から、東京は戦争状態に突入した。そしてその20年から21年にかけて、保健所と東京都庁の感染症対策部門の課長として新型コロナ対策の第一線で指揮を執り続けた医師がいた。本書は書く方の活字中毒でもあるその公衆衛生医が、未曾有の事態の中で経験したことを後世に伝えるためにつぶさに記録したものである。巻末では東京都の医療アドバイザーも務める大曲貴夫医師(国立国際医療研究センター)との対談も収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
83
保健所の統廃合により職員を減らされ、ペーパーレス化もシステムの一元化もできず、思考停止状態になって睡眠時間を削って働き続ける実情を読み、問題提起の書として長く読み継がれてほしいと思った。確かにこれでは戦場のようなものだろう。かなり問題点は浮彫になったと思うのだけれど、おそらくコロナが終わったら大半の国民が浮かれて苦闘の日々を忘却し、数年後にまた一から同じようなことを繰り返すような気がしてならない。そのためにも政府の上層部の方々には保健所をはじめとする医療改革をお願いしたいのだが……。2022/02/10
フム
36
コロナ禍において繰り返す感染拡大の波、そのはじまりの2020年1月から第5波の2021年9月まで、保健所の課長として第一線で指揮を取り続けた公衆衛生医師が書いた記録である。災害が起こった時、平時のシステムでは回しきれない業務が押し寄せる部署がある、それが今回は保健所だったわけである。システムを改善し、委託できる業務は外部に回しと火事場の馬鹿力で乗り越えては来たものの、それももう2年である。職場を去った仲間もいるという。今第6波の渦中で彼らが奮闘していることを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。2022/02/09
Twakiz
34
オリンピック終了のころまでの(すでに遠い過去のような気がしてくる)東京の保健所でのコロナ奮闘記.保健所の皆様には大変に頭が下がります.自分の地域でも少ない人数で言葉通り不眠不休で対応されていました.ダイヤモンドプリンセス号からの方を受け入れたときは何もわからなかった,今はだいぶ相手が分かってきたのだけども戦っているのがウイルスなのか社会なのか人間なのかわからない瞬間が多数あった.コロナ禍は人間の本性(個人としても集団としても)をあぶり出したと感じる.よくぞ記録を残してくださった.2022/06/12
みや
16
東京都の公衆衛生医による20年1月から21年9月までの奮闘記。同時期に本庁と保健所の課長職に在籍し、企画・患者対応双方の最前線に立つ。地獄のような日々の中でこれほどまでの記録を残せたのは、メモ魔を自認する著者ならでは。先進的に取り組む(取り組まざるを得ない)都と、後手に回る(回らざるを得ない)国とのタイムラグにより、都に多大なムダが発生するという構図は、毎度のことながら気の毒。給与に見合わぬ高度で責任ある医療職の公務員の志の高さに頭が下がる思い。2022/09/06
Inzaghico
16
それにしても、大混乱のなかでよくぞユーモアを維持し、笑えるエピソードを記録しておいてくれたものだ。陽性者で、二人でゆっくりしたいから早くホテルに入りたいカップルやネットゲーム対戦したいから友人と一緒に入りたいという猛者がには、苦笑した。著者は、リゾートホテルではないので個室だ、と説明を繰り返したという。とある小学校で「三密」は何かと出題したら「密会」「密談」「密輸」という回答があったとか。こんな高度な答えが出せる小学生の顔を見てみたい。2022/05/28