〈怪異〉とナショナリズム

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〈怪異〉とナショナリズム

  • 著者名:怪異怪談研究会/茂木謙之介
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  • 青弓社(2021/12発売)
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  • ISBN:9784787292629

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内容説明

人々を政治的・社会的・文化的に統合し均質化する近代の国民国家は、非合理な他者の一つとして〈怪異〉を排除した。だが〈怪異〉はそのような近代社会と緊張関係をはらみながら様々に表象され、ナショナリズムにときに対抗し、ときに加担してきた。

戦前・戦後の文学作品、怪談、史跡、天皇制、二・二六事件、マルクス主義と陰謀論、オカルトブーム――〈怪異〉にまつわる戦前・戦後の小説や史料、事件、社会的な現象を取り上げて、「戦争」「政治」「モダニズム」という3つの視点からナショナリズムとの関係性を読み解く。

〈怪異〉とナショナリズムが乱反射しながら共存した近代日本の時代性を浮き彫りにして、両者の奇妙な関係を多面的に照らし出す。

目次

はじめに 茂木謙之介

第1部 戦争と教化

第1章 戦意高揚物語への接近と離反――泉鏡花「海戦の余波」における〈人間ならざるものたち〉の役割 鈴木 彩
 1 典型的な戦意高揚物語のなかで
 2 「海は日本の友達」の妥当性
 3 千代太が知らない海の姿

第2章 出征する〈異類〉と〈異端〉のナショナリズム――「軍隊狸」を中心に 乾 英治郎
 1 「軍隊狸」と〈不気味なもの〉
 2 赤い〈狸〉と白い〈神〉
 3 不死身の〈狸〉と血を流す〈神〉

第3章 恋する死者たちの〈戦後〉――『英霊の聲』と文学的なるもの 松下浩幸
 1 天皇への「恋」
 2 「神」と「人間(ルビ:ひと)」
 3 加藤典洋と三島由紀夫
 4 主体と〈文学〉的なるもの

第4章 二十世紀前半の史蹟保存事業と史蹟の怪異 齋藤智志
 1 近世期における史蹟と怪異
 2 近代の史蹟保存事業と怪異の扱われ方
 3 怪異の湧出・共存

[コラム]亡霊となる戦死者 川村邦光

第2部 政治と革命

第5章 怪異と迷信のフォークロア――佐藤春夫「魔鳥」「女誡扇綺譚」における〈植民地的不気味なもの〉 堀井一摩
 1 台湾原住民のフォークロア――「魔鳥」
 2 台湾漢民族のフォークロア――「女誡扇綺譚」

第6章 テロルの女たちはなぜ描かれたのか――宮崎夢柳「鬼啾啾」の虚無党表象をめぐる一考察 倉田容子
 1 虚無党の表象と「残虐趣味」
 2 「鬼啾啾」におけるイデオロギーの揺らぎ
 3 秩序の揺らぎと「おぞましきもの」

第7章 〈怪異〉からみる二・二六事件――北一輝と対馬勝雄におけるオカルト的想像力 茂木謙之介/大道晴香
 1 二・二六事件をめぐるオカルト的想像力と『霊告日記』の射程
 2 陸上自衛隊弘前駐屯地「対馬勝雄関係資料」と対馬の思想と行動
 3 対馬の神霊観
 4 「霊界通信」の源泉(1)――郷里の巫俗
 5 「霊界通信」の源泉(2)――霊術への関心

第8章 マルクス主義的陰謀論の諸相――デリダ・ジェイムソン・太田竜 栗田英彦
 1 社会科学と陰謀論――近年の研究動向の概観
 2 デリダとアイク
 3 ジェイムソンとコールマン
 4 太田竜における陰謀論と終末論

第9章 井上円了の妖怪学と天皇神話 井関大介
 1 『妖怪学講義』における天皇神話
 2 円了の倫理学と日本主義
 3 「術」と「方便」の思想

[コラム]戦争と妖怪的なるもの、三題 成田龍一

第3部 合理化とモダニズム

第10章 大佛次郎「銀簪」と近代的怪談――山田風太郎創作メモ「小説腹案集」より「雪女」の記載を手がかりに 谷口 基
 1 風太郎の初期傑作「雪女」について
 2 「小説腹案集」五九の「雪女」について
 3 若き風太郎の怪談観と大佛次郎の「銀簪」
 4 「近代的怪談」としての「銀簪」
 5 「銀簪」初出テクストから削除されたもの/残されたもの

第11章 中井英夫「虚無への供物」考――〈戦後〉という怪談、中井英夫から寺山修司へ 小松史生子
 1 「虚無への供物」と二つの〈戦後〉
 2 「お化けの正体」――天皇制と慰霊
 3 虚言の後継者――中井英夫から寺山修司へ

ほか

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

HANA

71
戦前のナショナリズムというとセピア色の写真を思わせるものがあるが、その有様はどこか怪談と相性がいいように思っていた。本書はその時代の怪異をナショナリズムという観点から読み解いていく一冊。論じられている内容も鏡花に三島由紀夫に二・二六事件、共同墓地、ムーといずれも興味深いものばかり。個人的に好きなのは二・二六事件の将校と土俗、「英霊の聲」を解説した部分とムーと天皇制が読み応えありすぎ。ただ好きなテーマだけど前知識が必要で難解なのもあったし。とあれあの時代を怪異という観点から振り返った本書、面白かったです。2021/12/24

∃.狂茶党

9
天皇を親とし、国家を家族とするシステムは、全てのつながり、絆を謳う。 226の思想的後ろ盾である北一輝は、祖霊に加わり、霊界通信を誓って刑に処される。 天皇という超越者の血族として、自身もまた選ばれしものだと補強していく、瞞着。 本書では左の陰謀論者太田竜が、天皇制に絡め取られていく様子も検討され、これらの動きは、キリスト教という一神教との接触、中華という巨大な帝国と接してきたことが、背景にあるのではないかと思われる。 つまりは庇護を求めつつ虚勢を張る幼稚さ。 「国葬」の前日に記す。2022/09/26

qoop

8
超常的なものを要請して自派/自国の正当性を補強し、他者/他国への無理解を不気味さの中に閉じ込める。都合よく怪異を使役しようとしながらも、枠から外れていく怪異の在り方が見え隠れする辻褄合わせへの興味深さを感じさせる一冊。そうした論旨のわかり易い一作を挙げるなら、乾英治郎〈出征する〈異類〉と〈異端〉のナショナリズム〉だろうか。勝ち戦では意気軒昂に活躍する異類たちが、敗戦では限定的な超常能力しか揮えない様子を論じていて、ある意味微笑ましくもある。2022/07/17

佐倉

7
図書館本。怪異とナショナリズム……つまり近現代的な国民国家の意識が既存の怪異にどのような影響をもたらしたか、あるいはどのような怪異を生み出したかをそれぞれが論じていく。226事件の首謀者たちの中にあった霊術家への傾倒、戦後天皇に失望した作家たち(三島や中井英夫)がいかに怨霊を生み出したか、佐藤春夫の台湾小説に見る植民地主義が否定した怪異と新たに生み出した怪異、月刊ムーが天皇(ナショナリズム)をいかに取り上げてきたか、等々。三島は虚を実に読み替えようとした……という中井英夫の三島評が妙に心に残る。2022/06/24

mittsko

5
出席したいのに予定がいつも合わない「怪異怪談研究会」(2012年~)、五冊目の成果。日本の近代化が自らを反映させつづけるかたちで怪異怪談の歴史を変化させたことは、すでに明確にされている(Cf. 谷口基『怪談異譚』)。そしてそれは「ナショナリズム」の時代の出来事であった… ということで、表題のような企画が立ったとの由。こうしたかなり幅広の問題関心のなか、13の論文と3のコラムが各論を各自で展開する。全体像は読み取りづらいが、その構えが好い! ※ 各論文・コラムの質が、軒並み高い。個別に味読するのが吉2023/08/23

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