内容説明
くまにさそわれて散歩に出る。「あのこと」以来、初めて――。
1993年に書かれたデビュー作「神様」が、2011年の福島原発事故を受け、新たに生まれ変わった――。「群像」発表時より注目を集める話題の書!
2011年。わたしはあらためて、「神様2011」を書きました。原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段にかまえた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりもむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ、という大きな驚きの気持ちをこめて書きました。――<「あとがき」より>
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
415
初出が「群像」の2011年6月号だから、原発事故後の早い時期に書かれた。あえて自身が以前に書いた「神様」と重ねたのは、作家の希求するものが、穏やかな日常空間だからだろう。「神様2011」でも、彼等の日常生活は一見、何も変わらなかったかのように続いている。そして作家は、そこにこそ根源的な恐怖の深淵を垣間見る。もはや永久に戻らない日常に対する作家の怒りと、どうしても自分なりに書いておかなければならないのだという使命感とが、この小説を書かせた。ややストレートに過ぎるが、これが川上弘美の作家的誠意なのだろう。2014/12/08
hiro
177
『神様2011』を図書館で借りて、今日一日で『神様』と『神様2011』を続けて読んだので、今日「神様」を3回読んだことになる。2011年3月末に書かれた「神様2011」は、「神様」のパラレルワールドであるが、あの事故によってほのぼのとした「神様」とはまったく別の印象をうける作品となっていた。そこに川上弘美さんの悲しみと怒りを感じた。2015/02/14
風眠
155
3月11日晴れ。黙祷の時間になっても、何を祈ればいいのかわかんないし、何を思っても嘘くさくなっちゃうし、何日かぶりでスンと晴れ渡った空を見ていた。言葉にならないいろんなこと、掻きむしるみたいにピアノを弾いた。自分をなだめるみたいに音を重ねた。空が暮れ色に染まって、そして読む。今日だからあえて読みかえす。『神様2011』ビリビリビリビリって、こころが震えた。2013/03/11
buchipanda3
122
「神様」ふたたび。「あのこと」(2011年の原発事故)を受けて、著者がデビュー作を自らリライトしたもの。くまとの散歩というどこか不思議な光景があのことによって変わってしまった。事故を想起させる表現が淡々と唐突に現れてドキッとなる。周りの人間のセリフや様々な場面も印象が違うものに。元々、日常の陰にある切なさを感じさせる物語だったが、それは別の哀しさに包まれたものになっていた。あとがきを読み、変更箇所を敢えて淡々とした文章で書いた中に著者のぶれない強い思いが感じられ、その思いを胸に受け止めた。2020/03/01
mocha
112
'93年に書かれたデビュー作『神様』は既読。震災後にリライトされた『神様2011』と二作並べて収められているので、その印象の違いに胸が苦しくなる。牧歌的でとぼけた味わいのある〈熊〉とのピクニック。そこに〈放射能汚染〉という要素が加わることで途端にのどかな川辺が暗転し、熊でさえ無力で小さく思える。おとぎ話がSFに変貌し、熊との抱擁にも別の意味合いが生まれてくるようだ。あとがきこそがこの本のキモだと思う。2017/02/28