内容説明
2500年前、アジア・アフリカ・ヨーロッパの三大陸にまたがる「史上初の世界帝国」として君臨したアケメネス朝ペルシア。エジプト侵攻やペルシア戦争など征服と領土拡大をくり返し、王はアフラマズダ神の代行者として地上世界の統治に努めた。古代オリエントで栄華を極めるも、アレクサンドロス大王によって滅ぼされ、220年の歴史は儚く幕を閉じた。ダレイオス1世ら9人の王を軸に、大帝国の全貌と内幕を描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
119
アケメネス朝ペルシアといえば欧州文明の源泉である古代ギリシアの敵役か、アレクサンドロス大王に滅ぼされた国としてしか記憶されない不幸な存在だ。塩野七生『ギリシア人の物語』はそうした西洋中心史観の所産だが、ローマより早く三大陸にまたがる史上初の大帝国を2世紀余も維持できた点はもっと評価されていい。語りつくされたギリシアとは逆にほとんど知られざるアケメネス朝の歴史を、乏しい史料を解読しながら辿るプロセスは未知の世界史を探る面白さに満ちている。ペルセポリスの遺跡に立ちたいが、果たしてイランを訪れる機会は来るのか。2021/10/25
サアベドラ
51
歴代君主列伝を軸としたアケメネス王朝史。2021年刊。著者の専門はギリシア・ペルシア関係史。ポストコロニアルによる反動がありつつも、王朝自身が碑文以外に叙述史料を残す伝統がなかったこともあり、なんだかんだでへロドトスなどギリシア史家の記述に依拠せざるを得ないのが難しいところ。そのせいか、後継者争いと属州反乱ばかりが目について、いま一つ偉大な帝国という印象を受けにくい。ギリシア人から見たペルシアのイメージの記述は面白く読めた。類書の青木健『ペルシア帝国』と読み比べると視点がかなり異なっており興味深い。2022/01/13
崩紫サロメ
37
アケメネス朝通史。長らく、ヘロドトス等ギリシア語史料によって西欧人の目線で語られてきたこの地域も、1970年代以降、ポストコロニアリズムの影響を受け、見直しが行われている。だが、本書はあえて、ギリシア語史料を読み直す。何が語られ、何が語られず、それが近年の研究でどのように批判されているかを限られた紙幅の中でテンポ良く語る。アケメネス朝についての入門書であるが、ここで挙げられている具体例は、ポストコロニアル批評の本質に関わるものであり、これからポストコロニアル批評を学びたい人にも良き入門書と言える。2021/09/29
健
33
世界史の地図を眺めていると時々出てくるペルシャ帝国。どのような国か知らなかったので大変面白かった。紀元前550から220年間、あのような砂漠地帯で国として存在したことが驚きだけど、その歴史が伝わっていること自体が驚異的なことだと思う。ベヒストゥーン碑文が岩山に彫られているとのことでグーグルアースで見たら岩肌に文字がびっしり彫られていて2度びっくり。日本はまだ縄文から弥生に移った頃なのに。世界には文字や記録媒体がなかったために忘れ去られてしまった文化や国家がまだまだあるんじゃないかと思ってしまった。2021/12/21
MUNEKAZ
31
アケメネス朝ペルシャの通史。在位の長い9人の大王の事績を縦軸に、史上初の世界帝国を描いている。ヘロドトスの『歴史』などギリシャ人による文献や碑文を基にしながらも、サイードの『オリエンタリズム』批判以後の研究動向も踏まえた姿がわかりやすく紹介されている。こうしたペルシャ帝国の「語られ方」に注目した部分が、単純な王様列伝になるのを防いでおり、興味深く読めるところ。著者の比較的中立な立場で、歴史を綴ろうとする姿勢にも好感が持てる。2021/09/22