内容説明
デビュー戦を初回KOで華々しく飾ってから、3敗1分けと敗けが込むプロボクサーのぼく。そもそも才能もないのになぜボクシングをやっているのかわからない。ついに長年のトレーナーに見捨てられるも、変わり者の新トレーナー、ウメキチとの練習の日々がぼくを変えていく。これ以上自分を見失いたくないから、3日後の試合、1R1分34秒で。青春小説の雄が放つ会心の一撃。芥川賞受賞作。(解説・町田康)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
62
健全な男子の健全な物語のように読めて、あまり面白くなかった。ボクシングをやっている主人公の「うっくつ」は、年齢を重ねるうちに諦めてやり過ごせるようになっていく種類のものだ。そのあたりが青春小説ということか。ボクシングの身体的表現を通して普遍を描こうとしているのはうっすらとわかる。でも(ボクシングだけに)パンチが足りない。2022/01/11
三代目けんこと
34
久しぶりに芥川賞受賞作を読了。2022/04/30
ネムル
15
これは面白い。他の作品を積極的に追いたくなる。先の見えず果てない自問自答、空をきるようなシャドーボクシングが、新米トレーナーとのうさんくさい信頼と互恵関係のなかから、次第に相手を見定め前進する。リズムよく打ち出される言葉の魅力もさながら、思考と身体性とが拳を固めるように言語を形作り、前へ前へ他者へと向かい、果ては己をも食い破る。スリリングで楽しい作品だった。手に汗を握るようにして、町屋良平を応援したい。2022/04/09
黒井
15
21-125】文庫で再読。気力体力尽きた先、言葉の体をなさず頭の中で蠢いたり纏わりついたりする抽象がある。屈託と矛盾と憂鬱と縋りたい希望と掴みたい瞬間とがない混ぜになる、それらを横目で見たり浸ったりのうちに突きつけられ抉られて満身創痍で目を閉じるのはいつだって重く長く横たわる夜のただなか。削ぎ落とされた先に待つ一秒へと挑む峻厳さとは無縁で生きてきたけどそれでもそれらを追体験出来るのが小説でもある。だからやっぱりラスト4頁のための作品だと思う。感情や衝動の速さに到底追いつかないのにそれらを喚起するこの威力。2021/12/26
武井 康則
13
考えて体を動かすと、まだ先があることを知る。体の使用は個々それぞれで基本は間違ってなくてもちょっとした変わりはあって、身体そのものの知恵の深さにいつも驚かされる。主人公は、夢も希望もない。彼の考え、行動に意味はない。彼の体の理解者であるコーチが現れて彼の言うままに動くとき、主人公の体は目覚め、身体の思考、思想が表現される。体の動きの不思議を知っている人なら共感できるはず。2022/05/08