内容説明
「見えない恐怖」は止まらない――。コレラなどの疫病が「感染」するものと認識されてから、たかだか一五〇年ほどにすぎない。だが病気をもたらす不可視の微生物への恐怖と不安は、呪術的思考と絡み合いながら、人と人とのつながりや社会のあり方を一変させた。それは効果的な感染予防の福音を伝えた一方で、ジェノサイドを招く火種ともなった。本書は十九世紀末の「細菌学革命」にまつわる光と影、その後のヨーロッパ世界の激動を、臨場感溢れる多数の図版と共に追う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ようへい
7
『鹿の王』の続編へ弾みをつけるべく手にした本書。なぜなら、続編の主人公はヴァンさんではなくホッサルくんだというではないですか。あの子、あんまり好かんのよ。…しかし、続編が感染症の話ではないという事をこの時はまだ知る由もなかった。伝染病の原因が瘴気だと信じる大衆の意識を変えるのは難しかった。そこで政府は「衛生博覧会」を開催する。病気の恐ろしさと合わせて原因や対策を伝え、人々を啓蒙した。その活動は日本にも伝わる。グロテスクでエロティックな見世物として。ようこそ荒俣宏ワールドへ。という部分が面白かったです。2022/03/04
氷柱
5
800作目。12月25日から。濃密な内容ではあったけれど、あとがきにもあった通りこの分野の歴史をしっかり紐解こうと思ったらさらに多くの紙面を割かなけばならず、そうなって来ると読み手としては収拾が付かないところへと誘われてしまうだろう。そういったことからもそれ程までに底知れぬ分野であることが容易に推測される。タイムリーな話題であり同じジャンルの作品が飽和状態にあるけれど、切り取り方や線引きが上手い分、わかりやすくもあり、かつほど良い深さまで導いてくれる良書となっている。読み物としても十分に面白い。2021/12/26
ジャック天野
1
第4章 衛生博覧会 が面白かった。 1851年から1940年は博覧会の時代とのこと。 当時の博覧会の様子がわかり楽しい章で、 行ってみたいなぁ〜と思いました。 2025年の大阪万博も楽しみ^_^ 2022/03/08
Oltmk
1
躍進を果たした近代ドイツにおいてコレラなどの感染病が猛威を振るった中で、ドイツ人たちはどのような取り組みを行った書籍だが19~20世紀の人間たちでさえも前近代の呪術的思考が纏わりついていた事が理解でき、未来人からしたら今を生きている我々でさえも呪術的人間と思われるのだろうなと思った。終章においてどれだけ科学・倫理などが発展しても、排除的・呪術的思考などを取り除く事は出来ず第二次世界大戦のホロコーストに繋がったという締め括りは本書の終わりを告げるのに相応しかったと思う。2022/02/14