内容説明
量子力学を応用した科学技術が、現代社会のいたるところに浸透した現在。いまや量子力学の正しさを疑う者は少ない。しかし、ふとこの知の体系における基礎概念の哲学的含意を問うと、とたんに明確な答えが遠のいていく。そんな量子力学にまつわる概念的問題を網羅的にまとめた、初歩的な知識から一歩先に進むための2冊目の入門書。
目次
はじめに
第I部 哲学的準備
第1章 量子力学における観測とその問題
1.1 序
1.2 量子力学における観測問題
1.3 解決のための選択肢
1.4 射影公準__
1.5 残された課題
付録: 異なる定式化による観測問題(?)
第2章 EPR論証とベルの不等式
2.1 EPR 論証
2.2 ベルの議論と非局所性
2.3 非局所性・信号伝達可能性・因果
付録: テンソル積ヒルベルト空間
第3章 コッヘン=シュペッカーのNO-GO定理
3.1 スピン角運動量:スピン1の場合
3.2 コッヘン=シュペッカーのNO-GO定理
3.3 ベルの指摘と状況依存型の確定値付与
3.4 最後に
付録: 有限次元ヒルベルト空間
第II部 量子力学の解釈問題
第4章 軌跡解釈
4.1 『光子の裁判』
4.2 解釈
4.3 解釈の特徴
4.4 量子現象の説明
4.5 現状と評価
付録A: フォーマリズムからの「導出」
付録B: 所有値についての補足
第5章 多世界解釈
5.1 エヴェレットの相対状態形式
5.2 状態ベクトルの分解の非一意性
5.3 確率をどう解釈するのか
5.4 多世界解釈の実験的検証
5.5 再びいつ世界は分岐するのかの問題
5.6 多世界解釈と実在性・非局所性
付録: 頻度解釈によるボルンの規則の導出
第6章 統計解釈
6.1 波動関数の収縮
6.2 波動関数の統計解釈(回答Iの考え方)
6.3 波動関数の個別系解釈(回答IIの考え方)
6.4 NO-GO定理
6.5 新しい統計解釈へ向けて
6.6 新しい統計解釈
6.7 統計力学的アプローチ
6.8 おわりに
第7章 時間対称的な解釈
7.1 時間対称的な量子力学
7.2 時間対称的な量子力学の解釈
7.3 時間対称的な量子力学の物質波解釈と異常な弱値
第III部 量子力学における諸概念
第8章 不確定性関係
8.1 はじめに
8.2 ハイゼンベルクの不確定性原理
8.3 不確定性関係の物理学的な意味
8.4 不確定性関係の哲学的な意味
付録A1: ケナードの不等式の導出
付録A2: ロバートソンの不等式の導出
付録A3: シュレーディンガーの不等式の導出
付録A4: 誤差と擾乱の不確定性関係ε(x)η(p)≧h/2の導出
付録A5: 小澤の不等式の導出
第9章 時間とエネルギーの不確定性関係
9.1 初期の時間とエネルギーの不確定性関係
9.2 光子箱の思考実験
9.3 ボーアの回答
9.4 ブッシュの回答
9.5 ダイクスとラムの回答
9.6 時間とエネルギーの同時測定の可能性
付録: ハイゼンベルクによる時間とエネルギーの不確定性関係の導出
第10章 古典と量子の関係
10.1 古典極限
10.2 エーレンフェストの定理
10.3 h→0
10.4 N→∞
おわりに
索引
白井仁人(しらい・ひさと)担当章:第6・8章・おわりに
1965年生まれ.名古屋大学理学部物理学科卒業.名古屋大学理学研究科博士課程修了.博士(理学).宇宙科学研究所(現JAXA),小山工業高等専門学校,名古屋大学を経て,現在,一関工業高等専門学校教授.地球電磁気地球惑星圏学会大林賞受賞,国立高専機構理事長奨励賞受賞,科学基礎論学会評議員など.主要業績:「量子力学への統計力学的アプローチ」(『現代思想』2007年12月号)など.
東 克明(ひがし・かつあき)担当章:第2・3章
ほか