内容説明
戦争、奴隷制、禁酒法……背景を理解すれば、作品がもっとよくわかる
「黒猫」のプルートはなぜ黒いのか? 書記バートルビーはなぜ「しない方がいい」と思うのか? 度重なる戦争の歴史、色濃く残る奴隷制の「遺産」等、アメリカという国、そこに暮らす人々の特異な歴史的・文化的・社会的背景を踏まえて短篇小説を読み解く。これまで主にマイノリティや越境者の文学に注目してきた著者が、メルヴィル、フィッツジェラルド、フォークナー、ヘミングウェイ、サリンジャー等、アメリカ文学の「王道」といえる作家に挑む、アメリカ文学入門の新・定番!
〈目次〉
暴力と不安の連鎖―ポー「黒猫」
屹立する剥き出しの身体―メルヴィル「書記バートルビー‐ウォール街の物語」
英雄の物語ではない戦争―トウェイン「失敗に終わった行軍の個人史」
共同体から疎外された者の祈り―アンダソン「手」
セルフ・コントロールの幻想―フィッツジェラルド「バビロン再訪」
存在の基盤が崩れるとき―フォークナー「孫むすめ」
妊娠をめぐる「対決」―ヘミングウェイ「白い象のような山並み」
人生に立ち向かうためのユーモア―サリンジャー「エズメに‐愛と悲惨をこめて」
美しい世界と、その崩壊―カポーティ「クリスマスの思い出」
救いなき人生と、噴出する愛―オコナー「善人はなかなかいない」
言葉をもたなかった者たちの文学―カーウ゛ァー「足もとに流れる深い川」
ヴェトナム戦争というトラウマ―オブライエン「レイニー河で」
愛の可能性の断片―リー「優しさ」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ずっきん
85
フォークナー『孫むすめ』の他の訳が読めるかと手に取ったら、アメリカ古典文学を巡るというラジオ講座の書き起こしだった。作家ごとに一編を取り上げ、テンポよく解説や背景を語っていくというスタイル。タイトルは堅苦しいけど全然そんなことはなく、筆者のアメリカ文学愛があふれていて読み心地がいい。未読が何編かあったので最初は飛ばしてたけど、結局全部読んでしまった。フォークナー、オコナー、サリンジャー、オブライエンは、ピックアップされた短編が大好きなので楽しかった。 なんつってもバートルビー。誰の解説解釈読んでも面白い。2022/03/19
まこみや
44
昔読んだ時、カポーティ「クリスマスの思い出」は、童話的なファンタジーとしか思えなかった。サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』は、読んだような気がするが、さっぱり印象に残っていない。最近読んだ、オコナー「善人はなかなかいない」については衝撃的な結末に唖然としたけれど、その意味も主題も見当がつかなかった。この本を読んで、要するに自分が全く読めていなかったという忸怩たる思いが浮かぶのを止めようがなかった。都甲先生の指摘や分析は実に明晰で説得的だ。改めて『ナイン・ストーリーズ』を読み直してみようと思い直した。2022/04/06
M H
26
ポー、メルヴィル、カーヴァー、トウェイン、サリンジャーなどアメリカの代表的な作家の13短篇を文化的な背景や歴史を説明しながら読み解く。個人的には、宗教が絡む作品への理解がゼロなので、オコナー「善人はなかなかいない」の解説がありがたかった。読んだ当時はひどく混乱したけれど、厳しい人間観とユーモアが同居した忘れがたい一篇なのを再確認できた。無理を承知でいうと、BLM関連で「フライデー・ブラック」収録作も欲しかったような。2021/11/05
のりまき
21
面白かった。あらすじを最後まで語ってくれているので、未読でも読んだ気になれる。オコナー、何かのアンソロジーで既読。ただただ怖かったのだけれど、詳しく解説してくれて、理解することができた。サリンジャーをもう一度読み返したくなった。2022/01/24
くさてる
18
ポー、メルヴィル、サリンジャー、ヘミングウェイと言ったアメリカ文学の短篇小説から読み解く、アメリカの歴史や文化、社会の流れ。まるで大学の文学部の講義を聞いているような面白さと巧みさ、読みやすさで楽しめました。ヘミングウェイ「白い象のような山並み」カーヴァー「足もとに流れる深い川」の解説が我が意を得たり、というか納得の内容でとくに素晴らしかった。アメリカやアメリカ文学に関心がある方は特に楽しめると思いますが、短篇文学の解析に興味がある人にもおすすめ。良かったです。2021/11/20