あの春がゆき この夏がきて

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あの春がゆき この夏がきて

  • 著者名:乙川優三郎【著】
  • 価格 ¥1,485(本体¥1,350)
  • 徳間書店(2021/10発売)
  • ポイント 13pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784198653637

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内容説明

2001年『五年の梅』で山本周五郎賞、02年『生きる』で直木三十五賞、04年『武家用心集』で中山義秀文学賞、13年『脊梁山脈』で大佛次郎賞を受賞。1年年『『太陽は気を失う』で芸術選奨文部科学大臣賞、17年『ロゴスの市』で島清恋愛文学賞を受賞。
あらゆる賞を総なめにしてきた名手が描く美しい本!

戦後、浮浪児だった男が主人公。画家の養子となり、装幀家になる。多くの女性と出会い、別れ……。名手が紡ぐ「一人の男」

「死んだ伯父さんが言ってた。汚いものばかり見ていると目も汚れる。そんなときこそ、美しいものを探せって」神木が画家に出会ったときのその言葉が、彼の運命を変えた。
神木は忘れなかった。女性を愛し、芸術を愛しながら、浮浪児の孤独だけは忘れずにいたので、ときおり、自家中毒を起こした。

神木(こうのぎ)は、戦後、浮浪児から、画家だった養父に拾われ、「養子となった。芸大在学中、養父が死去。
全くの一人になった男が辿った道筋とは。出版社の装幀部に勤めていたが、その後、川崎にバーを経営。魅力的な女性と出会い、別れる。名手が書き下ろす一人の男の人生。
「変に優しいのよね。けっこう優しく裏切る」
彼は優しい男のまま別れようとしていた。人の人生までねじ曲げるような乱暴は好まなくなっていた。
女は気を失うような刺激に飢えていたのだと思った。今の女には安堵の色が見えていた。
「私が男の人に真実を期待しすぎるのかしら、それとも男の人が私に真実を期待しないのかしら」ニューカレドニア生まれのマリエは神木の経営するバーに咲いた花だったが、とことん男を見る目がなかった。男に裏切られてきた女が見出したのは。

逗子に住む富豪夫人・漆原市子の画集装幀を依頼される。
「描いている間の自由を愉しみ、どうにか平常心を保ってきたのです。私の絵は窮屈な現実との闘いであり、逃避でもあります。ここが私の全世界」
「動機はなんであれ、突き進むのが芸術です」

戦争孤児で浮浪児だった神木は、軌跡的な出会いで、画家の養父に拾われた。浮浪児だった時、清潔な下着や靴下、自分たちを案じてくれる人の目、親の抱擁と言った温かいものに飢えていた神木は、美しいものにもそれに代わる力があるのに気づいて癒やされた。
終わりを感じる体と精神になって人生を見失い、もう一度性根を据えてなにかに懸けてみようと考えたとき、神木には美しい本をつくることしかできそうになかった。

「パリだけがフランスでないように、東京だけが日本でもない、人はその人に向いている土地というのがあるのかもしれない。そこに行き着くためにいろいろやって生きてきたような気さえする」

神木は美しい本を求め続ける。
「十年後に見ても美しいものが本物だろう、ここからが私の闘いで、愉しみなが身を削ることにもなる」

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

じいじ

85
読むほどに、どんどんハマっていった乙川さんの時代小説。そして、いま一つ馴染めなかった現代小説でしたが、今作はすごく気に入りました。連作短篇集ですが、とりわけ表題作が好きです。むかしは絵を描き、いまは本の装丁でメシを喰う主人公。「夢では幾度も君に逢っていたよ…」と、美しいがどこか哀しく、非力に見えるがどこか頼もしい、そんなむかしの恋人との再会シーンが印象に残ります。随所で乙川氏ならではの美しい文章、ことばに出逢いました。2022/04/21

74
神木という男の半生記。時代によって立場は変わっても生き方そのものは不変。ある意味不器用ではあるけれど憧れる生き方でもある。じっくりと読み込みたい作品。2022/04/26

ゆみねこ

70
うーん…文章の美しさでどうにか読み切った。2022/03/16

kei302

66
乙川先生の最新刊。端正な文章。心が洗われます。いいわぁ…やっぱり。女性の描き方が本当に巧い。 芸大を出て出版社で装幀の仕事に就き、その後、バーの経営者になり、神木の人生は続いてゆく。 自分の求める装幀を追求するまでの遠回りも糧になる。紙の本の力ってすごいとしみじみ思った。 フォントのサイズは小さいのに、文字間とかフォントの種類などに配慮された、眼にもやさしい、大人のための本。2021/11/13

キムチ27

63
装丁から引きずり込まれ、選びつくした掌の言葉にくらっと。何処までが乙川氏か神木か。。って感じたり。40歳代までならスルーしたであろう男の打算 薄汚さに辟易したし。これほどに男っていやと感じさせられた作品も久しぶり。人生の黄昏期に佇む神木 対面からさりげなくサーブを打ち返す女性が細かい機微で描かれる。短編集でありつつ終始語り手は神木の目線 時が流れ 終章の標題でそれぞれの姿が朦朧体で表出するのが美しい?マリエの章では胸がつまる想いになった彼女に安堵。日本を去り、ルシヨンに落ち着く西野へのスポットが心に沈む。2022/02/12

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