内容説明
国際的な産業競争力を向上するために「内向き志向」を改善して海外に目を向け、語学力やコミュニケーション能力、主体性をもつことを期待される若者=グローバル人材。近年では、文科省や経産省がその育成に力を注ぎ、経団連が必要性を訴えている。
留学も含め海外に渡る若者は現在でも多いのにもかかわらず、行政や企業が強く求める「グローバル人材」とはいったい誰なのか。
海外滞在経験をもつ若者ともたない若者へのインターネット調査と、カナダやオーストラリアに実際にやってきた若者へのフィールドワークを組み合わせて、「普通の若者」にとっての海外経験の意味をすくい取り、期待される「グローバル人材」とのズレに、階層やジェンダーという、「若者の意識」だけには還元できない問題があることを明らかにする。そして、「グローバル人材」といった特権的な人材層の育成だけに目を向けるのではなく、若者のキャリア形成の多様性を確保しながら、若者に広い視野を与える環境づくりの必要性を指摘する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ジュリアンヌ
5
ゼミ文献。グローバル人材について、というよりは、若者論。就職活動中に読んだので、「自分探し」、「やりたいこと」、「就職活動で失敗して海外に来た」というワードがグサグサ刺さった。結局は、日本の卒業して企業に勤める道だけじゃないよ、ということ?2017/06/20
Mc6ρ助
2
今の若者たちが持つ閉塞感を長期海外滞在者の研究、ヒアリングによってあぶり出す。それは日本社会、労働、ジェンダーを論じ、さらには、西洋的「主体としての我」と仏教的「関係性の中に生きる己」という哲学的考察におよぶ。『ジェンダーカテゴリーとは、正確には・・<男>対<NOT男>、つまり「男」が先に輪郭づけられ、・・だとすれば、前出の三人は<NOT男>を選んでいる。・・「企業的男らしさ」のだなかにいる人びとからすれば、先の三人は「男として終わっている」かもしれな(p199)』「我」を選ぶ結論は受け入れがたいが良書。2016/08/05
つかぬ間の休息
1
巷や私自身の職場でも話題となるグローバル人材について、男性正社員の無制限な労働を「規範的」なものとするシステムの中で定義されているものと指摘しており、非常に新鮮。そうしたシステムから周辺化される女性・縛られる男性のどちらにとっても、考えさせられる内容だった。2016/05/28
ゆ
0
ジェンダー/移民/キャリア/言語とか色々な面から語られていて面白かった。「グローバル人材」て大抵男・日本企業に勤めるサラリーマンで駐在を厭わない人ていう考えがなるほどな〜て思うし「日本=企業」として捉えていて企業文化を外れた人はいくら海外に出ていても所謂「グローバル人材」にはならない。じゃあなんなんていうとglobal citizenとかcosmopolitan 。2017/04/23