内容説明
神に、抗え。
人間らしさって、なんだろう。
生きていくために、何を選択していけば良いのだろう。
神の敷いた新たなルールの下で繰り返される、史上最大の自問自答。
異色のディストピア青春小説。
※※※
西暦20XX年、全人類の夢に神が現れた。
曰く、死後の世界の環境保全のため、
「人間レベル」を導入することにした、と。
生前の善行によって個々のレベルが測定され、
死後の世界での待遇を決定する、というのだ。
以降、人類は
自身の考えや感情とは違う行動を選択せざるを得ない種となっていった。
世界は穏やかに混乱し、
「人間レベル」は人が純粋に生きることに対する足かせのように
人類を侵していったのだ。
善と偽善が入り乱れ、うまく泳ぐ者もいれば、生きにくさに溺れてしまう者もいた。
高校生の平野雄一はそんな世界に反感を抱き――。
ひとり、神に抗おうとしたのであった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
141
死後の世界の生活はポイント次第という神によって定められたルールにより、より待遇の良い死後の生活のために現世で善行を積み、ポイント稼ぎに励む人々ー余命幾ばくもない幼い息子に死後の幸せを願いポイント稼ぎさせようと必死になる親…その気持ちは分かるけど、それで息子は「今」幸せなのか? 純粋に困ってる人を助けたいという思いではなく、自身のポイントのための人助けが当たり前の世の中…怖いなぁ。「今を生きるって?」「偽善って?」とかいろいろ考えさせられた。ストーリーも面白くサクサク読めるが、深い一冊だった。2021/11/23
じょんじょん
41
神様に出逢って、死後の道筋を選別されるという話はよくありますが、善行をポイント制にして人間のレベルを決めるのは今どきの設定だなと思いました。行為だけがポイント積算されて天国への関門になるとは、手段が目的化する典型的なパターンですね。本来のなぜや本質の気持ちすら「偽善」分類される世の中になったら末期的ですね。著者自身はそんなに深く考えて描いていない、と後書きでコメントしていますが、いまの世の中で陥りいりやすい話かもしれません。善行をする側もされる側も歪まず素直な気持ちでいられる世の中 でありたいものです。2022/01/07
うまる
34
神が死後の待遇を決定する基準を公開した事によるディストピア。「悪い事してると地獄に行くよ」が現実的になった世界は、悪行をする人が減り良い世界になるはずなのに、どこか歪んでいる。その気持ち悪さは何なのか。最大のポイントは、この制度では偽善は善であるという事。これに抗おうとする主人公に共感しつつ、純粋な善行と偽善との違いを考えさせられる面白い話です。神の真意も納得で良くできてました。あとがきによると、大層なテーマがあって書いた作品ではないそうですが、意図しないでこんな話ができるなんて凄いと思います。2022/02/26
よっち
34
西暦20XX年、全人類の夢に現れ、死後の世界の環境保全のため「人間レベル」を導入することにしたと告げた神。善と偽善が入り乱れる世界で、高校生の平野雄一が反感を抱き抗おうとするディストピア青春小説。要領いい存在が幅を利かせる中で、そんな世の中のありように違和感を隠せない雄一。彼が当たり前のように周囲の人を助ける川瀬に出会い、少しずつ変わってゆく展開で、「人間レベル」のせいで当たり前が歪んでゆく構図はなかなか皮肉が効いていましたけど、そうなったことがどういう意味を持つのか、いろいろと考えさせられる結末でした。2021/11/29
エル
9
生前、善行を積むことで人間レベルにポイントが与えられ、ある程度の点になると天国へ、足りなければ地獄へ落ちることになってしまった世界。人は人間レベルを上げるために善行をすることに躍起になる。しかしされた方は感謝などしない。むしろ自分の人間レベルを上げたいためでしょ、と。そしてありがとうの代わりにこう言う。「(人間レベルを上げるために)お疲れ様」。なんて嫌な世界だろう。善とは、偽善とはなんだろうと考えさせられる。一気読みでした。2021/12/10