内容説明
女性ホームレスの生活史から、女性が貧困に陥る過程を浮き彫りにし、福祉制度や研究が前提にしてきた人間像を問い直す。2013年刊行の第33回山川菊栄賞受賞作に、著者による付録「貧困女性はどこにいるのか」と岸政彦氏による解説「出会わされてしまう、ということ」を収録した増補新装版
目次
はじめに
第1章 女性ホームレスのエスノグラフィに向けて
第2章 女性ホームレスとは
第3章 女性ホームレスを対象とした福祉体制の成立
第4章 福祉施設の利用とジェンダー規範
第5章 女性野宿者たちの生活世界
第6章 野宿をすることと野宿を脱すること
第7章 変化のプロセス
第8章 主体化の魔力に抗して
おわりに
付録 貧困女性はどこにいるのか
解説 出会わされてしまう、ということ(岸 政彦)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
60
【男性ばかりの街で、女性野宿者はどんな困難を抱え、どのように生きているのだろうか】これまでほとんど研究されることがなかった女性ホームレスについて、その知られざる生活世界に分け入り、生活史や福祉制度の歴史から社会的に排除される過程を浮き彫りにする書。付録「貧困女性はどこにいるのか」と岸政彦の解説を増補。2021年刊。<男性を前提にして成立してきたホームレス研究全体を、ジェンダーを分析視覚として持ち込むことによって再検討し、男性だけではなく女性をも扱うことができるものにまで、その枠組みを鍛えあげていく>と。⇒2025/08/20
かさお
35
以前読んだ岸さんの断片的な社会学の流れで。女性ホームレスの数、欧米では全体の3割だが、日本ではわずか3%、その為、これまでの研究は野宿者は男性である事が暗黙の了解だった。しかし実際には多いはずの見えざる貧困女性はどこにいるのか?何故生まれたのか?→戦後の家族モデルが、男性は労働、賃金獲得、女性は家庭内再生、結婚前は父親が扶養、結婚後は夫が扶養する性的役割分業の考えから女性が野宿者になる事は想定外だった。男性は稼働能力の有無が厳しく問われ、福祉や扶助の利用が認められず野宿生活に陥りやすい、などなど。→2022/10/04
itokake
13
自分のことを上手に表現できない路上生活者に対して社会学だけでは限界がある。事実、失踪を繰り返す人に対しては、最終的には支援することをあきらめ、捜索願すら出していない。先行研究の引用ばかりせず、医学的視点をとりいれたらいいのに。支援者の中には医師がいるし、時には精神病院への入院もあるが、うまくいっていない。脳卒中後にギャンブル依存した人は、高次脳機能障害では?この人は依存症が目に見えやすいものだったので、自助グループがうまく機能。気づかれにくい障害を拾い上げる人が支援者にいたらなあ、とずっとモヤモヤした。2024/03/11
どらぽん
11
あらゆる選択がある社会でホームレスでいるということは、ホームレス自身の主体的な選択によるものである、という福祉・法律・研究の前提を、著者はこの本の中で突き崩す。主体性なんてものは、複数ある選択肢の間で迷い、半ば偶然のように選択し、失敗もしながら他者とのかかわりの中で維持していくという実践の過程にすぎないのかもしれない、という著者の発見は自分にとってとても新鮮だった。今回は女性ホームレスに焦点を当てることで、ホームレスと一括にすることで排除されてしまう人々の姿を暴いたが、これから学べることはたくさんある。2022/05/08
aoi
7
貧困に苦しむ女性の中でもホームレスを「選択」する人達。しかし「選択」にはジェンダー的な考え方、主体性の難しさ、野宿生活の中での他者との繋がりや自己開示(自己の居場所作り)等複雑な要素が絡み合う。女性ホームレスの生活史を知り、野宿に至る経緯を読み、また、どんどん変化していくプロセスを知ることで「社会問題」という大きな括りから、一人一人の生きずらさ、それぞれの生活問題への関心と人間発達という視点を感じることが出来た(気がする) 正直今の私には難し過ぎて読み込めたとは言い難いが、内側から掻き乱される感覚を得た。2022/06/27