内容説明
彼女はもういないのかと、ときおり不思議な気分に襲われる――。気骨ある男たちを主人公に、数多くの経済小説、歴史小説を生みだしてきた作家が、最後に書き綴っていたのは、亡き妻とのふかい絆の記録だった。終戦から間もない若き日の出会い、大学講師をしながら作家を志す夫とそれを見守る妻がともに家庭を築く日々、そして病いによる別れ……。没後に発見された感動、感涙の手記。(解説・児玉清)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
449
いつもすぐ傍にいてくれた 最愛の人を喪った哀しみ。 城山三郎が亡き妻容子に おくる回想記の形をとる ラブレターである。 読んでいて特に心が痛い のは、この幸せな時間が もう思い出の中にしか 来ないことを知っているからだろうか。 昭和26年の出逢いから 始まる二人の思い出は、 素直に心にしみわたり、 逆に哀しさが増幅して いく。その時に向かって 過ごした日々は濃密な 幸せな時間だったと思いたい。2015/11/23
ykmmr (^_^)
192
歴史小説や経済小説で、建設的に筆跡を残しながらも、何処か描かれている人物に『想い』も馳せながら作品にしている城山さんであるが、これは先に旅立った奥様への『想い』そのもの。名古屋で出会い、「空から天使が降りた。」と表現される『運命』の出会い。一回、交際を断られて距離が出来るも、諦めずにいたら、自然と距離が縮まって…。恋が成熟。オトコの一途な人が陥る様な大恋愛をし、実らせた若き城山さん。結婚後は娘2人を授かるが、その娘とのやりとりと、それを作った奥様流『子育て』が語られる。2022/11/24
めろんラブ
176
妻に先立たれた後、心に去来する想いをストレートに記した、この上ない”愛妻日記”と感じた。寂寥感漂うタイトルが秀逸。ユーモアを交え淡々と紡がれる御夫妻の歴史に少々当てられつつ、このような強い信頼関係を築いてこられたことに心底敬服した。連れ添うこと、これいかにも難儀なりと歯噛みの日々を送る向きには、本書の醸すユートピア感は最早ファンタジーの域かと。妻恋しの絶唱が胸に刺さりつつ、さて容子夫人の真意や如何にと思う我が底意地の悪さよ。2015/03/04
パフちゃん@かのん変更
165
なんて素敵なご夫婦。1927年生まれの城山さんだが、その頃には珍しい恋愛結婚。それも臨時休館の図書館の前で『間違って、天から妖精が落ちてきた感じ』一度しか会っていない彼女をゆくゆくは伴侶にと思ったが、彼女はその時高校生で彼女の父親の猛反対により別れた。が、1年後ダンスホールで出会い、交際復活。絵にかいたような恋愛ストーリーですね。文士の妻となった彼女は天真爛漫な性格で、一度もケンカらしいケンカをしたことがない。様々なエピソードが彼女の人柄を表している。城山さんはこの人と結婚できて本当に幸せな人生だった。2014/07/12
新地学@児童書病発動中
162
作家の城山三郎氏が亡き妻への想いを描いたエッセイ。涙なしに読むことはできない。骨太な言葉の端々からこぼれ落ちてくる慕情の気持ちが切ない。親しい者の死は簡単に受け入れるものではなく、ここに描かれているように日常の生活の中でこみあげてくる「もう君はいないのか」という喪失感なのだろう。お転婆な容子さんの肖像が魅力的で、城山氏と好対照だと思った。最期に息子さんと別れる時の行動に、容子さんの明るさと優しさが凝縮されているような気がした。2016/05/24