内容説明
今は失われた、唯一無二の自由都市の姿――市場や庶民の食、象徴ともいえるスターフェリー、映画などの娯楽から死生観まで。知られざる香港の街と人を描き個人旅行者のバイブルとなった旅エッセイの名著。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
64
「在りし日の」と、オビに書かれているように、1984年のイギリス統治時代に書かれたエッセイ。近年の香港にかかわるニュースを見る限り、今は街の雰囲気は全く様変わりしているのだろう。自由港と言われた都市を、細かく観察・考察した文章は、かりそめの存在として、土地も貨幣も「国家」とはちがったレベルにある生活のもつ様相を、読者が日本と対照するだろうことを前提に綴っていく。そしてそのすべてが記憶になりつつある。この2021年の復刻本には、夢から現在に引き戻すかのように、文章末の注記に「雨傘運動」の文字が加わる。2021/08/31
TomohikoYoshida
18
70年代の香港の姿が描かれたエッセイ。小学校時代にあこがれた映画Mr.Booのまさにその時代の香港の話である。植民地で、中国人はほぼ移民(難民?)で、大陸から泳いで渡ってきた人もいて、価値基準は収入で、自由貿易都市で、家賃は高く部屋は狭くて…。読んでいると、遠い過去の話なのに、今まさに香港の空気を吸っているかのような気持ちになる。憧れた場所は、今や完全に中国の一部になってしまった。そんな寂しさも感じた。きっとこの時代の香港らしさというのも、今に至る過程で失われてきたし、これからも失われていくのだろう。2021/09/17
ポテンヒット
15
香港映画が好きで、一時期よく観ていた。香港は煌びやかで、猥雑で、エネルギッシュだった。この本は著者が香港に住んでいた77年頃の話。当時の街の喧騒、人々の生活の温度や匂いが伝わってくる。酒場でブラームスを弾く赤毛のイギリス人、映画館で「アイヤーッ」と叫ぶ観客、ドアの隙間から新聞を差し込む新聞配達の少年…私が好きだった頃の香港を思い出させる。せめてあの頃の香港の記憶を共有していければと思う。因みに、文庫本のためのあとがきはリンゴ日報が廃刊した日付である。2022/02/03
しょうゆ
9
完全にジャケ買いでしたが中身も面白かったです。香港という場所は政治的にも文化的にも特殊なところなんだろうと思っていましたが、もっともっと雑多で自由な感じなんですね。犬鍋、英語名、九龍城についての文章は興味深く読みました。返還前の自由な空気が失われてしまった現在の香港が気になる。2022/06/18
バジルの葉っぱ
7
この本に書かれている70~80年代の返還前の香港には父が赴任していため、学生だった私も長い休みには何度も訪れていたのでとても懐かしく読んだ。本書を読んでいて街の空気のにおいや広東語の独特なイントネーションの喧騒、ほとんど真上からの強烈な日差しのアスファルトからの照り返しなど・・記憶が甦ってきた。そして90年代前半仕事についてからもなぜかご縁で香港担当となり1年ほどの間はひと月のうち10日間を香港で仕事していた時期もあった忘れられない国。 返還後のいまの香港もいってみたいなぁ。もう行くことはないだろうか。。2021/09/23




