ちくま新書<br> 聖母の美術全史 ――信仰を育んだイメージ

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ちくま新書
聖母の美術全史 ――信仰を育んだイメージ

  • 著者名:宮下規久朗【著者】
  • 価格 ¥1,265(本体¥1,150)
  • 筑摩書房(2021/09発売)
  • ポイント 11pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480074010

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内容説明

2020年4月、一枚の聖母像の前でフランシスコ教皇は、新型コロナと戦う連帯を全世界に呼びかけるミサを行った。今も昔も、悩み苦しむ人びとが求めるのは、「母なるもの」のイメージなのだろう。イコンをその源に持つ聖母は「受胎告知」「ピエタ」「無原罪の御宿り」など様々な主題を生み、祈りの対象としてのみならず、西洋美術史を強く牽引した。聖母像の起源から、ルネサンス、バロック、日本の南蛮美術やお掛け絵、現代美術に至るまで、その大潮流を追いかける比類なき美術史。

目次

はじめに 聖母と美術──なぜ信仰を集めるのか
成長する聖母 聖母信仰と聖像
第1章 聖母像の成立──イコンと黒い聖母
1 最古の聖母画像
カタコンベの聖母 ルカの聖母 オディギトリア型
2 聖母イコンの意味
「神の母」としての位置づけ 半身像の意味 ビザンツのイコノクラスム
3 ロシアの聖母イコン
エレウサ型 ロシアとイコン ブラケルニオティッサ型 ニコポイア型
4 ローマの聖母イコン
サルス・ポプリ・ロマーニ ローマの古いイコン
5 黒い聖母
様々な黒い聖母 なぜ黒いのか 地母神信仰の伝統 黒い聖母への視線
第2章 中世の聖母──涙と乳
1 イコンとナラティブ
聖母伝 最古の聖母伝壁画
2 受胎告知
受胎告知という主題 受胎告知の五段階 祈念像としての受胎告知
3 嘆きの聖母
「悲しみの人」の成立 「嘆きの聖母」からピエタへ
4 絵画から彫刻へ
彫刻の忌避 ゴシックの聖母崇敬 国際ゴシック様式の聖母
5 慈悲の聖母
ペストの生み出した図像 慈悲の聖母 シエナ フィレンツェ ヴェネツィア 「慈悲の聖母」の発展と終焉
6 授乳の聖母
「授乳の聖母」の誕生 乳と血 出産の聖母
第3章 ルネサンスの聖母──「美術の時代」の始まりと危機
1 聖会話
聖会話の成立 ベッリーニの聖会話 ティツィアーノの革新 ロットとコレッジョ
2 聖母被昇天
聖母の死・被昇天・戴冠 ルネサンスの聖母被昇天
3 聖家族
ヨセフの存在 アンナとヨアキム
4 美術としての聖母子
ルネサンスの聖母子画 ラファエロの聖母子 天上の聖母子 ラファエロの影響
5 反ユダヤ主義と聖母崇敬
ペストとユダヤ人迫害 レーゲンスブルクの聖母像
6 イコノクラスム
宗教改革と聖像破壊 聖母崇敬の否定 クラーナハの《マリアヒルフ》
第4章 バロックの聖母──危機の時代の幻視と爛熟
1 カトリック改革と聖母
カトリック改革と図像 聖母イコンの復活 絵画タベルナクルム
2 ロザリオの聖母
ロザリオ信仰 「ロザリオの聖母」の図像
3 無原罪の御宿り
「無原罪の御宿り」の教義 「無原罪の御宿り」の図像 スペインでの発展
4 幻視と顕現
幻視とは 幻視画の成立 聖母の顕現 聖人の法悦
5 ロレートの聖母
聖家の奇蹟 カラヴァッジョの聖母
6 ペストと聖母
ヴェネツィアのペスト ボローニャとモデナのペスト ローマのペスト ナポリのペスト
第5章 聖母像の広がり──植民地・民衆への浸透
1 エクス・ヴォートにおける聖母
エクス・ヴォート エクス・ヴォート図像の起源 追悼のエクス・ヴォート
2 中南米の聖母
ペルーの聖母 ミッション美術 メキシコの聖母 レタブロ ブラジルとその他の国の聖母
3 近代の聖母の顕現
カトリックの復興 奇蹟のメダイ ルルドとファティマ
4 「美術の時代」の聖母像の普及
「美術の時代」と祈念像 聖母像への働きかけ 個人的な祈念像 増殖する聖性
第6章 東洋の聖母──インド・中国・日本への伝播と変容
1 インドの聖母
アクバル帝と西洋美術 ジャハンギール帝と聖母像
2 中国の聖母
元の聖母 マッテオ・リッチと明の聖母 中国の聖母子像
3 マカオの聖母
聖パウロ天主堂のファサード マカオのキリスト教画像
4 南蛮美術の聖母
ジョヴァンニ・コーラの影響 現存する聖母像 マリア十五玄義図 踏絵の聖母
5 かくれキリシタンの聖母
生月島のかくれキリシタン お掛け絵の聖母 かくれキリシタンにとっての聖母像
第7章 近現代の聖母──衰退から変奏へ
1 十九世紀美術の聖母
宗教美術の衰退 ドイツとナザレ派 イタリアとプリズモ イギリスとラファエル前派 フランスとリヨン派
2 世紀末から二十世紀の聖母
母子像の流行 ポスト印象派と聖母 象徴主義の聖母 ピカソとマティス 戦災記念碑としての聖母 シュルレアリスムと写真
3 近代日本の聖母
山下りん 悲母観音と騎龍観音 牧島如鳩の観音図 カトリック聖堂の壁画 戦後の母子記念碑
4 現代美術と聖母
第二ヴァチカン公会議と宗教美術 ウォーホルのマリリン ジャッキーとピエタ カタリーナ・フリッチュ スキャンダルと聖母
おわりに 生き続ける聖母──なぜ美術と結びつくのか
マリアの実像 聖母の普遍性 聖母とイメージ
あとがき
主要参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

trazom

110
聖母マリアをめぐり宗教と芸術の両面からの深い考察が巡らされ、正に「全史」というに相応しい素晴らしい一冊である。時代や地域によって異なる事情を丁寧に網羅しつつ、聖書では重要でないマリアが、なぜ広く信仰を集め、なぜ造形芸術と結びついたのかと問う著者の思索は広くて深い。あとがきに、宮下先生が、大学生の娘さんをガンで亡くされた話が書かれている。「聖母マリアが共感を呼んで親しまれたのは、子を産み育てる喜びだけでなく、子を失うという人間で最も深い悲しみを経験したからでもある」という本文が思い出されて、涙が止まらない。2021/12/05

アキ

100
プロテスタントに聖母信仰はない。聖母マリアは世界で最も信仰されている女神である。世界中に広まったのは、ラファエロ「聖母子像」とムリーリョ「無原罪の御宿り」の影響がある。この頃から美術の対象となり、全世界の地母神と一体化する。日本のキリシタンも聖母像が中心だが、踏み絵を西洋で行っても効果はなかっただろう。そもそも聖母は神でもないのだ。時代と共に聖母の変遷があり、それは現代にも生き続けている。あとがきで著者が吐露した娘の死にキリスト教が無力だったことに想いを馳せる。膨大な聖母の歴史は奇蹟と幻視と顕現の写し。2022/01/09

クサバナリスト

14
・「サルス・ポプリ・ロマーニ(ローマ民衆の救い)」 ・マタイ伝・ルカ伝には聖母・マリアに関する記述があるが、マルコ伝・ヨハネ伝にはない。パウロ書簡にも神の御子が「女から生まれた者」と記されるのみ。 ・聖母の描かれ方の変遷史、特に宗教改革に伴うもの、また、東洋における仏教との関りとの中で観音菩薩との融合していく流れ等、とても興味深いものがあった。2021/08/05

Francis

13
美術史家宮下規久朗先生の460頁と言う大著。キリストの母マリアのイメージから派生した「聖母」をめぐる美術について古代から現代まで語った野心的な著作。2021/12/20

泉を乱す

10
あとがきに涙😢 内容も全ページに発見があった。図書館で借りて読んだのだけど、これは改めて買って手元に置いておきたいと思う。2022/05/09

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