内容説明
撮影行為のアルケオロジー
ナチ収容所では、囚人たち自らが秘密の写真撮影に成功していた──はたして、それらの写真はどのように見るべきか? ドキュメンタリー映像作家でもある著者は、囚人たちが命がけで隠し撮りした秘密写真を手がかりとして、それら秘密写真が撮影された現場(アウシュヴィッツ=ビルケナウ、ブーヘンヴァルト、ダッハウ、ミッテルバウ=ドーラ、ラーフェンスブリュック)に赴く。そしてマニアックなまでの正確さで場所や時刻、シャッターが切られた瞬間を探しもとめ、写真を凝視し、撮影者や被写体について掘り下げ、細部を浮かび上がらせてゆく。
本書は、カルロ・ギンズブルグのミクロストリアの手法さながらに、ホロコーストの歴史を“無修正で”物語ることにより記憶と歴史の関係を問い直す。そしてそれは同時に、スーザン・ソンタグやロラン・バルトの写真論、クロード・ランズマンやディディ=ユベールマンらによるイメージ論を更新する「撮影行為の考古学」でもある。アネット・ヴィエヴィオルカが本書序文で「鮮烈なほど革新的な書」と称える所以だ。
『夜と霧』や『ショア』の記憶を確かめるため、未公開資料も参照しつつ五つの収容所を実地調査した、戦慄の「写真論」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
owl&shepherd
3
写真論の題材としては、異例中の異例。しかも、強制収容所の囚人が命がけで撮った写真を読み解く。解像度も悪いし、構図も歪んだ写真は、パッと目にはわかりにくい。著者は写真から撮影場所や人物像を解読していく。ショッキングなのは、女性の足に残った人体実験の痕跡を解説するところ。また、先日のNHKスペシャル『アウシュビッツ 死者たちの告白』に紹介されたゾンダーコマンド(本書では特務班)が死体の山のなかをバランスと取りながら進む男の後ろ姿の写真も。名もなき人たちの最期をここまで看取る人がいるのを、救いと言っていいのか。2021/10/26
CHRONO
2
ナチ収容所の中で命がけで撮られた写真の解説。専門的な解説も多く読み物というよりは資料集。飛ばし読み。修正された写真の理由。写真が撮られた場所や当時の天気の考察。レジスタンスの存在。ウサギと呼ばれた人体実験被害者の傷跡が痛ましい。隠し撮りされた写真の数々にナチの行為を記録して断罪するための執念を感じる。2025/01/15
圓子
2
物から考えるから「アルケオロジー」。ただ「アルケオロジー」の語から連想した理路整然さ、明晰さからはかけ離れた印象の文章が連綿と続く。遺されたものである写真プリントから取り出すべきもの(=事実・歴史)と想像してはいけないもの(=幻想)。プリントには残せなかった、写真の外にあったであろう決定的なもの、について。ここでは、写真が隠し撮りされたものであることに意味がある。妙に感覚的だったり断片的だったりで、完成品ではなく、思索ノートを眺めているみたい。2021/06/27
Masako3
1
★★☆ フランスの映像作家が、子供の頃見た映画、夜と霧、にトラウマに似た衝撃を受け,残存しているナチ収容所の囚人自身が隠し撮りした写真から、その撮った人の来歴、撮影当時の状況、その後その写真がどのように明るみに出たのか、撮影者や分かっている場合は,被写体達がどうなったのかを調べて記載した本.写真の描写は,専門的な用語で記載され、粗いその画像からは必ずしも全て確認できない.筆者が控えめながらも、収容者達の心情を推測するところも多い。表情が読めない粗い写真は,寡数でありながら,雄弁で恐ろしい.2021/03/20
takao
1
ふた2021/02/13
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