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内容説明
194*年4月、アルジェリアのオラン市に突如発生した死の伝染病ペスト。病床や埋葬地は不足、市境は封鎖され、人々は恋人や家族と離れた生活を強いられる。一方、リュー医師ら有志の市民は保健隊を結成し、事態の収拾に奔走するが……。不条理下の人間の心理や行動を恐るべき洞察力で描いた、ノーベル賞作家カミュの代表作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
132
1947年の発表時には、ペストというナチスに立ち向かうレジスタンス参加者になぞらえて読まれたという。2022年には否応なくロシアによるウクライナ侵攻と、侵略者と戦う現地の人びとを投影してしまう。ナチスもロシアも自分たちの正義を主張し、正義のためなら人殺しをためらわないペストに匹敵する容赦ない不条理だ。しかも不条理な天災の新型コロナに苦しむ現代にあって、人間中心主義者プーチンの傲慢さという不条理が重なった。不条理により子供が苦しめられる世界を愛するのを死んでも拒む意思こそ、作者が訴えたかったことではないか。2022/09/12
アナーキー靴下
105
ペストという不条理に見舞われた人々の有り様を描く群像劇。時事的にも有名作品だが、お気に入りの方の紹介を見て遅ればせながらこの新訳版を読んだ。コロナ禍を経験したからこそ真に迫るように感じる面はありつつも、世界の不条理さを写し出す面が大きいように思えた。ペストの災禍によってそれまでの条理が失われるリュー医師の日々が縦軸であるが、一足先に不条理な世界に足を踏み入れていたよそ者のタルー、明確な条理を持たずあまり変わりなく見える非正規公務員のグランなど、画一的であるはずの不条理がもたらす影響の多寡は各々違うように。2021/10/31
pohcho
58
ネズミの大量死から始まったペストの流行。市は封鎖され、人々は町に閉じ込められてしまう(外から入ることはできるけど出られない)患者も死者もどんどん増えて、病床や埋葬が不足し、最後は巨大な墓穴に死体をどんどん埋めるようにまで・・。死病のペストとコロナはまったく違うものだけど、それでもコロナ禍を経験した今だからこそ実感できるものがあるなあと思う。「人間はつねに不条理と直面しつつ生きていくほかない」という解説の言葉は本当にその通りだ。2024/04/03
おたま
52
「100分de名著」で『ペスト』を紹介していた中条省平氏の新訳。これまで私たちが長い間読み続けてきた新潮文庫版と比べて、格段に読みやすい、明快な訳となっている。昨年の3月に新潮文庫版宮崎嶺雄訳の方でレビューを書いたが、それよりも解像度は進んでいる。さらにこの1年半あまりで、私たちのコロナ感染症に関わっての経験も深化してきているので、その分、この『ペスト』が伝えようとしていることが、具体的な感覚として理解できるようになっている。これから『ペスト』を読む人はもちろん、再読の方にも薦めたい訳書だ。2021/09/29
k sato
36
カミュの故郷アルジェリアのオラン市に発生したペスト。その闘いを描いたフィクション。不条理の象徴ペストに人々はどう向き合うのか。出版から73年後に世界を席巻したコロナは、ペストの世界観そのものだった。カミュが想像だけで不条理下の人間の行動や心理を描写したのだとすると圧倒される。これは、神品だ。ペストには希望は描かれなかった。ペストとの共生を可能とする医療の発展を、カミュは想像できたはずだ。それなのに、なぜペストとの闘いを選んだのか。「誰でもこいつを自分のなかにもっている、ペストだ」の一節に背筋が凍った。2023/04/21