内容説明
江戸時代の思想の理解なくして近代日本の理解はない。伊藤仁斎、荻生徂徠、本居宣長……鎖国と封建制という厳しい条件下で発展を遂げた思想の諸相を明快に解説、その潜在的な近代性を明らかにする。江戸思想史の全体像をつかむうえで最上の入門書。新たに巻末エッセイ「自分と出会う」を付す。〈解説〉小島康敬
【目次より】
序 徳川時代の再検討
第一章 朱子学とその受容
第二章 陽明学とその受容
第三章 古学思想の形成とその展開
第四章 武士の道徳
第五章 町人と商業肯定の思想
第六章 十八世紀の開明思想
第七章 経世家の思想と民衆の思想
第八章 国学運動の人々
第九章 幕末志士の悲願
終 章 幕末から明治へ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
紙狸
13
2021年7月刊行。2007年刊の中公新書を文庫にした。長い徳川時代の全体像(思想面での)を描いたのは著者の力量だと思う。「啓蒙時代」と呼ぶ18世紀の人物たち(平賀源内が一例)が好きなんだろうな、と著者の思いも感じられる。ただ、「啓蒙」、「重商主義」といった、西欧の歴史に根ざす概念を物差しとして多用している。物差しにあてて測定しようとすると、とらえそこねるものもあるだろう。たとえば海保青陵論では、渡辺浩『日本政治思想史』の方が深い。2021/07/22
無重力蜜柑
8
良著。まず題名が面白い。といっても徳川家や幕臣の思想というわけではなく、内容は江戸時代の思想史。それを敢えて徳川思想と呼んでいるのは、江戸時代を徳川家に支配された封建秩序の社会とし、明治以降の憲法に支配された(一応は)四民平等の社会と対比的に捉えるためだろう。この近代以降との断絶そして連続というのが本書のメインテーマになっていて、鎖国の中で醸成された徳川思想が(ときには漢学や洋学の力も借りつつ)内在的に近代的「普遍性」へ到達した様や、逆に前近代故の限界に行き当たった様が克明に描かれている。2024/03/23
かみかみ
4
1973年初版の近世日本(江戸時代)の思想史の見取り図とも形容できる著作。下剋上を旨とした中世的武士が儒教的道徳を身に付けて官僚的な近世的武士へと変貌し、さらに幕末期に至って倒幕を果たして明治維新を果たした背景にあった思想史は読み応えがあった。興味深かったのが山鹿素行が説いた武士の職分について。武士階級が兵農分離で知行地から切り離され、生産に従事しない消費階級と化したからこそ人倫の道を実現しようとし、道徳の面で万人のモデルになろうとしたとして、西洋のジェントルマンに比定して洞察したのは慧眼だと思った。2023/10/29
山崎 邦規
1
江戸時代の思想がどのように形成され、明治の新潮流に連なったか、非常に鮮やかな筆致で描き出している。江戸時代の古典を読み、そのまま活用することはもはやできず、現代では思考の枠組みとなる概念が一変しているが、昔の精神性に触れ歓喜する重要性は現代においても些かも減るものではない。つまり重要なのは、現代における自分の位置を守りつつ、昔の古典に遊んでその哀歓を味わい、結果として心に師友を得ることである。私なら、子路や顔淵や孔子がまざまざと心に生きている。それで安泰な生き方にはならないが、少なくとも心楽しい面はある。2024/06/18




