内容説明
菊枕は頭痛持ちにきくというので先祖が植えた菊が咲き、花を摘み始める頃、妹ができた。
日野小太郎は五百石の祐筆の嫡男だ。赤い頬の妹を“喜知次”と呼んだ。
友人の牛尾台助の父は郡方で、百姓の動き不穏のため、帰宅が遅い。少年の日々に陰を落とすのは、権力を巡る派閥闘争だった。
幼なじみの鈴木猪平の父親が暗殺される。武士として藩政改革に目覚めた小太郎の成長に、猪平が心に秘めた敵討ちと喜知次への恋心を絡めて、清冽に描く傑作時代小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kei302
55
静謐な文体から、勝手に“楷書の作家”と呼んでいる。時代小説に戻ってきてほしい…と改めて思った。 小太郎目線で描かれているが主人公は花哉(喜知次)。メインの設定は改革と保守の藩内抗争。ありがちと言われればそうなのだけど、端正な文と聡明で芯の強い花哉の存在が際立っている。さすが、乙川優三郎。文庫本の表紙カバーは不満。6歳の花哉が日野家に養女として引き取られた日から庭に白い菊が現れたことやラストの大伴家持の歌の哀愁が伝わらない。単行本表紙は菱田春草「秋野美人」作品の世界観が凝縮されている。2022/07/26
masayuki
12
東北の小藩で起きる権力闘争を背景に、3人の若者がそれぞれの生き方をめざして悩みながらもたくましく成長していく。小太郎の揺れる心を支えてくれるのは、義妹・花哉である。幼馴染の男たちの物語がたて糸なら、花哉との物語はよこ糸である。ふたつの糸が交わって美しくも哀しい布が織り上がる。ラストシーンを読み終えた今、しみじみとした感動で心が満たされ、良い書に出合えた喜びを味わっている。2021/03/27
逍遥遊
8
185-20161011-08 これ当たりです。弱小藩の派閥争いと家族愛と友情と庶民のために尽力するといった盛りだくさんのストーリー。一気に読み終わってしまいました。おすすめです!2016/10/11
どら母 学校図書館を考える
8
せつない話だった。幕府の考える国替え、残酷なものだ。2015/10/27
ラスカル
7
青春小説かと読み進んでいたら、最後に一人の愛らしい女性の姿が大写しになり迫ってくる。タイトルの「喜知次」に納得する。久しぶりに泣けた。2017/05/11