内容説明
「あたしは、突然この世にあらわれた。そこは病院だった」。限りなく人間に近いが、性的に未分化で染色体が不安定な某。名前も記憶もお金もないため、医師の協力のもと、絵に親しむ女子高生、性欲旺盛な男子高生、生真面目な教職員と変化し、演じ分けていく。自信を得た某は病院を脱走、そして仲間に出会う――。愛と未来をめぐる破格の長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
136
『名前は、そうだ、ないのだ。文字どおり、誰でもない者、さしずめ、「某」だ』。『誰でもない者』が奇妙奇天烈、摩訶不思議な日々を生きる様が描かれるこの作品。そこには、川上ワールド全開に展開する”うそばなし”の究極を見る物語が描かれていました。次から次へと変化する『アイデンティティー』の面白さに酔うこの作品。後半に行けば行くほど突き抜けていく物語に頭の回転が追いつかないこの作品。『誰でもない者、さしずめ、「某」だ』という存在を思えば思うほど、人ってなんなのだろうか?と考えてしまうキョーレツ極まりない作品でした。2025/12/21
佐島楓
75
記憶も性別も持たない、あらゆる年代の人間のかたちに変化できる生命体が主人公。人と深くかかわるにつれて、恋愛をはじめさまざまな感情を学習していく——とここまではふつうのSFの展開。だが、やはり川上作品、一筋縄ではいかない。人に対する距離感や視点が不思議なのだ。最終章に近づくにつれ、不思議さは増していく。自己存在意義というテーマを扱いながらも、それだけにとどまらない物語。わたしはいったい、「何」なのだろう?2021/09/14
相田うえお
72
★★★☆☆25052【某 (川上 弘美さん)k】某、何者でもないもの...過去の記憶をほぼ保ったまま年齢,性別,容姿が変化。これは同じ個体であっても同一と言えるでしょうか。ということで、別人へと変化する度に新たなストーリーが重なっていきます。読み進めるうちに焦点の合わないレンズを覗いて対象を見失ってしまう様な?何というか得体の知れない微妙な気分になるんです。でも先が気になってしまう...。本作品に散りばめられたメッセージを正しく解釈するのは難しいのですが、存在,生,死,愛,幸せ,色々と考えさせられました。2025/08/30
優希
69
不思議な物語の世界が広がっていました。人間に近いけれど不安定な某。様々な立場になり、仲間に出会う。その中で人間とは何かを問うているように思えました。2021/12/11
Kajitt22
64
『某』を主人公に生と死、変異と成長、性と生殖、細胞分裂などを考察し、人間をあるいはその愛を探究しようとしているのか。読了の今は未消化感が強い。なぜかグレアム・グリーンの『内なる私』や平野啓一郎の『空白を満たしなさい』を思い浮かべた。『神様』や『蛇を踏む』『溺レる』『どこから行っても遠い街』などがなつかしい。2022/04/16




