内容説明
名曲と偉大な音楽家へのオマージュ
2000年秋のある晩のこと。それまで新聞でポピュラー音楽の評論家を務めていた著者は、ふとした思いつきで行ってみたクラシック音楽のリサイタルで、はじめて耳にするバッハ『無伴奏チェロ組曲』の、地味ながら豊かな、素朴なようで洗練された音楽にすっかり魅せられてしまう。たった1台の楽器が4本の弦で奏でる、この曲の何がこれほどまでに人を惹きつけるのか? この曲はどういう背景から生まれ、どのような道をたどって、現代のわれわれのもとへやってきたのだろう?
本書は実際の『チェロ組曲』の構成を模して、「第一組曲」から「第六組曲」までの6章がそれぞれ「プレリュード」「サラバンド」などと題された6つのパートに分かれている。それぞれの「組曲」で著者は、作曲者バッハと曲を世に広めた功労者カザルスの生涯を語りつつ、ミッシャ・マイスキーやピーター・ウィスペルウェイらチェリストたちのインタビューもまじえて、この楽曲のなりたちや受容について考察する。
大学で史学を専攻し、ジャーナリストとして音楽に接したのち、現在はドキュメンタリー番組に携わる著者ならではの、音楽と『無伴奏チェロ組曲』への愛あふれる1冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
100
心から豊かな気持ちになる素晴らしい一冊(さすが、白水社!)。バッハの無伴奏チェロ組曲を切り口にして、バッハとカザルス氏の人生が紡がれる。喧嘩早く、常に処遇への不満に塗れていたバッハ。嫉妬深く自己中心的な暴君であったカザルス氏。二人の人間性とその音楽的才能の対比が生き生きと描かれる。チェロ弾きにとってバッハの無伴奏はバイブル。バッハを弾くことで心が救われるのだと、コロナ禍の自粛生活の中で改めて痛感した。奇跡は、13歳のカザルス氏が、バルセロナの古書店で偶然この作品の楽譜を発見したことから始まったんだ。2021/12/05
ykshzk(虎猫図案房)
22
皆1度は聞いたことあるはずの曲。自分はとにかくバッハが好き。日々の調子を整えるためにもバッハの音楽が必要。グールドのピアノ演奏でばかり聞いていたけれど、たまたまカザルスの無伴奏チェロ組曲を最寄りの本屋で見つけて購入。これが本当に良い買い物だったのでこちらの本を借りてみたら、これも面白い。こわめの肖像画の人、時間に正確で几帳面な人、という印象が良い意味で崩される。バッハも人間なんだなー。そして13歳のカザルス少年が街の楽譜屋でこの曲の譜面を見つけていなかったら、この曲も私たちが知るところにはならなかった。2024/08/01
ひばりん
19
ひばりんもチェリストの端くれとして超マニアックネタをば。少年カザルスがバッハを「再発見」したのが1890年。欧州ツアーでバッハを披露したのが1901〜04年頃。レコーディングは1938年。これらの経緯が本当に再発見といえるかどうか(出版譜が出ていた程度には忘却されてはいなかった)という点が議論され続けているわけだが、1918年にFernand Pollainというチェリストが編集した版があり、これが笑うほどフランスロマン派解釈。グリッサンドと追加された音符の嵐。たしかに「忘れられていた」のかもね。2021/12/14
ろべると
5
新装版。バッハの無伴奏チェロ組曲という玄人向きの曲集に対する学術書かと思いきや、ポップ・ミュージックの批評も書くフリージャーナリストが、偶然耳にしたバッハに魅せられて迷い込んでしまった迷宮を、失われた自筆譜を求めて彷徨っているような、不思議な魅力を湛えた本であった。それぞれ6つの舞曲からなる全6曲の構成をそのまま章立てに使用し、チェロの巨匠カザルスの一生や著者自身の経験も織り交ぜた粋な作りで、飽きさせない。英文の翻訳がまた優れていて、フランスのラ・ロシュフコー「箴言集」を訳した人によるのだから驚きだ。2021/02/04
マサ
4
バッハの曲のいくつかは「無伴奏チェロ組曲」も含めてよく聴いている。しかしバッハ自身については知らないことばかりだった。バッハと言えば「宗教的な深い精神性」がイメージされるが、本書の人間味あふれる(俗っぽい)バッハ像は面白い。また、スペイン内戦の危機的状況の中でのカザルスの信念と行動に胸が熱くなった。CDを聴きながら、至福の読書。2021/02/19
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